「山北作業所」海老塚さんの談話 | ||
談話(e=海老塚、s=志郎康) | ||
1 | s「丁度ぴったり、これ」 e「えっ、」 s「こういうの作ったんで、」 e「ふふっ、」 s「そうですね、今のところ僕に感じではですね、今度作品って『山北作業所』ってなりますよね。」 e「はい。」 s「だからそこでの、基になるところですよね、基になるっていうのが、こういう木だとか、鉄だとか、それと同時に言葉があると思うのです。今日はだからその言葉の方を、何処までとれるかという、、、」 e「(頭振って)難しい、」 s「木もだからもちょっと撮りたいなあと思うんですけどもね、、、」 e「どうしようかな、」 s「なんか薄い紙ありますか、」(カメラの下に入れるための紙) |
海老塚さんがキッチンから麦茶持ってきて座り飲む |
2 | s「いや、書くんじゃないんですよ。 (海老塚さん麦茶飲む) それをどういうふうに、先ず言葉が、海老塚さんの作品は重要ですよね。」 e「うっふふ、それがまた、言葉っていうものが、そうですよね、だからもう一つ言葉が重要だというのは、言葉の外にあるものが重要だということなんですよね。」 s「言葉の外、言葉には内と外があるんですね。」 e「いやっ、言葉にはじゃなくて、言葉の外、言葉以外のもの、」 s「あっ、言葉以外のものが重要だから、」 e「言葉以外のもにあるということが大きな問題なんですよ。それも言葉でしか考えられない、考えるということは言葉なんだけれども、」 s「っていうことは、その言葉の外にあるものを結びつけるのが言葉、」 e「いやっ、結びつけられないでしょうね。」 s「でも、物にですね、いろんな細工、なんていうんですか、3:43何ていうんですか、この削ったり、とかなんとか、何というんですか、あれ、」 e「まあ、制作するっていうことがそうなっているいうですよね。」 s「じゃあ、物に何をする、物に何をいするんですか。」 |
海老塚さんが紙を持ってきて座椅子に座る |
e「加算と除去ですかね。何をといわれると、」 s「加算と除去ね。(笑い)いや、組み立てるとかさ、こういうじゃないですか、掘るとかね。」 e「まあ、だから掘るというのは、除去の方法ですよね。そこで何をっていうか、他の人たちは自分の表現というものをいっているわけだけど、表現することが加算と除去の問題だ、ですよね。だが、そうじゃなくて、物質っていうか、素材の美しさというものが何処にあるかという、ことなんですよ。その何処にあるかってこと、言葉の外で語るしかないものとしてあると思っているから、語るしかない、あの、制作するしかないわけです。だらか、言葉でそれをそこに位置づけることも可能かもしれないけれど、きっとそうではない、、、」 s「でも、その美しさというようなものをね。あの、こう、一つの何か、行為に結びつけていったり、なんか掘るとかね、行動ですよね、行動に結びつけていくのは、」 e「実現させるためですよ、その美しさを。」 s「それはだから、その回路というのはあるでしょう。」 e「うん、だからいろんな回路がある。」 s「で、そのときに、それは言葉ではないんですか。」 e「言葉ではないと思いますね。」 s「言葉ではない。」 e「言葉、つまり僕のいったのは言葉の芸術ではないわけですから、言葉でその、」 s「いや、だからその、これは掘るんだとかね、掘るとか、そういうまあ、アクションというものが現実に起こるところの」5:53 |
この会話の後、屋根から窓から覗き込んで仕事場俯瞰 | |
3 | e「だから、もっとより、こう物質、素材というもの、物体というものが何なのかなていうふうにと感じるところをしようと思ったんで、でそれを言葉で言ったときに、でもっと簡単ないいかたをすると、物質なんて簡単なもんだっていう言い方があるわけですよ。」 s「物質?」 e「うん、物質なんて何なの、って考えたときに、あれば痛いとか、ぶつかれば痛いとか、食べればうまいとか、そういったもんでしかないよ、っていう考え方もあるわけですよ。で、それはそこにあるからそれを感じられるわけですよ。」 s「勿論そうですよね。」 e「で、ある感じ方を僕は、あの、美術の中でしたい、それが言葉の外、に、あるものとして考えたいということなんです。」11:35 |
10:42 窓の蜂、風景の映りの後 |
e「先ず前提として言葉で考えるしかない、ということは前提としてあるんですよ。で、その言葉で考えるといったところから、導き出すものが何か、というこの導き出すものをまた言葉で言うべきなのか、言葉じゃない、言葉では言いきれない、っていう。言えないものをやッてんだってよく馬鹿な芸術は言いますけど、そんなんじゃななくて、言いたいと思っていても、言えなかったわけですよ。それは言葉で言えるものと、あの、言葉の、だから言葉の外にあるという言い方しかできないんですけども、言葉で言いたい、考えたい、考えられない言葉の外にあるものの真実、が実は僕にとって必要だったものなのかなっていうふうにここんところ思ってきちゃったんで。」12:31 | ||
e「あのね、あの、言葉、言葉で考えているぎりぎりのところもありますよね。それが境界なんですよね、境界、境界が一番面白いんですよね、境界っていうものが、あるかどうかっていうこと、言葉の外というわけですから、あるわけですよ、で、それをね、もう知らない間に制作っていう、つまりあの、あるプロットがるとすると、そのプロットによって動かされている表現があるわけですよ。さっき、台本と同じですよと」 s「だからまあ、そこでは行動になるわけですよね、はい。」 e「その、そこでの表現というのは全く違ったものになってくるわけですよね、言葉では言い表せない、言葉でそのプロット全部書こうとしたら、書けないわけですよ。その部分なんですよ、その部分を書くことによってものが、美しさというものを実在させる、っていうことになると思うんですよね。」 s「そうすると、言葉があって、その言葉の外側に向かうまあアクションがあって、で、また言葉に戻るとか、そういうこう、、、(戻らない)」 e「言葉に戻ったというときは、あの、もうそのものを見る鑑賞者になりますよね。」 s「ええ、だから、鑑賞者の場合には、ええ、そこにまあ何らかの意味に実現されますよね、その実現されたことに対してまた言葉が、、、」 e「生まれますよ。」 s「生まれますよね。」 e「それがだから、それが考えるっていうことですよね。見て考える、見て考える。それは従来の僕の制作方法と全く変わらないんですけれど、今までは言葉で考えたことをどうにか実現させようとしていたわけです。」 s「で、そん時に、すごく微妙なことになりますけど、要するに、アクションってまあ普通、あの美術作家の場合、結構限られていますよね、物に向かうんだから。」 |
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e「表現というのは、、、」 s「だから、そのそれ実在させる、自分にとってのまあ美あるいは真実というようなものを実在させるための行為ですよね。制作行為は、、」 e「踊り子が踊ったときに、自分の肉体でありながら自分を超えていなければ、表現にならないということですよね。自分の表現と、こう、まあ、台本とが一緒になっていく、そしてなおかつ、自分、その台本では描けないようなものを描くような、描ける、踊れるような踊り方を台本がさせているかどうかが、その台本の意味だと思うんですよね。その両方を僕は自分でやっていて、踊り子でありながら、台本であるんですよ。だが、踊り子はもう一つ素材であるわけです、つまり、僕は素材と出会うことによって、作品が生まれるわけですから、コラボレイションしているわけですから、そういうその凄く複雑なこう関係の中で、構築していくしかないです。で、単なる踊り子にもなれないし、単なる素材にもなれないのが僕であるわけですよね。だからこそ言葉の外っていうことを意識しない限り、こちら側にばっかり、自分の台本にばっかり引っ張られて行って、、」 s「で、そこでちょっと、あの、もう一つ、さっきから聞きたいと思っていたのが、その言葉の外側のことを実現するために、いろんな作るという行為をすんだと思うんですけど、そこの、その移行、移行ですね。言葉からアクションに移るというところは、それはどういうことなんですか。要するに、、、」 e「仕事ですね。」 |
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s「仕事。」 e「仕事!」 s「はあ、、、」 e「完全に仕事ですね。僕、命賭けているわけじゃないですから、美術に。見たいという思いからその仕事選んでますけども。この仕事でこうなろうと、こうしたいと、見ることが僕の仕事にとって大切だということですね。」 s「わかりました。そうすると、そこに手続きがあるんですね。」 e「手続きはありますよね。だから、やっぱり手続きというのは、作業場とか、ものを磨くとか、こう一つのものを手に取るとか、そういうところから始まりますよね。」 s「で、その手続きの空間が生まれますよね。何処でもいいわけじゃないでしょう。」 e「生まれるといえば生まれる、何処でもいいといえば、僕の場合は、どこでもいいですね。」 s「何処でもいいんですか。それはだけど物がないと出来ないんじゃないですか。物がないとできないんじゃないですか。」17:10 e「物は何処にでもありますよ。」 s「ということは、物は選んでんですね。」 e「選んでいるというか、作らなければならないところのそれぞれの状況がありますよね。だから、たとえば、ぼくは今、あの、わりと素材とか、手にはいるからいい物も使えるようになったから、金銭的にも余裕が出来たから、買うことが出来る、で、アトリエで作ることが出来る。でも、しかしそうじゃなくても作っていたわけですよね。だから、そこの川の石だけで作れと言えば作るだろうし、紙で作れと言えば作るだろうし、僕は何にもなかったら、そういう物で作るということで、日常的にその作ることにすぐ移行できるような、もう、何て言うんでしょうね、うーん、人間になっているというのか、全部そのもので生きようとはしていないけども、いつでもその中にいられるという状態ですね。」 |
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s「だから、その作業、作業する場所、仕事だから作業ですよね。だから、仕事と言ったんで作業という言葉で言ったので、その作業という言葉でいいのですかね、それは。」 e「はい。だから、ここは作業場、皆さんみたいにアトリエというよりも作業場の方がいいや、僕が作業する場所、だが、これは特別な作業する場所なんですよね、限定された。でも、そうじゃなくても、だから僕は先生と旅行に行っても、いつも紙を持って歩いているし絵を描いているし、みんなと飲んでいるときでも、絵を描いていたり、ということがありますよね。いつでも、そっちに行ったり来たりしている、こう、僕自身がある意味では結界にいるみたいな、、、」 s「結界」 e「状態にしておきたい、というのがありますよね。」19:11 |
この後。仕事場の彫刻、木塊を削る海老塚さん | |
4 | e「生産ですよ。作品を生産しいるんですから。僕は、あの、町工場の親父と同じような作り方をしたいんですよね。町工場の親父も自分一人で作ってるんじゃないですか、どんどん、どんどん熟練して行く、それはある目的があって、一つの、で、専門化されてますよね。僕は専門化はしないけども、そういうような姿勢でいたいということですね。工場ですから、作業するってのは工場ですよね。で、そこで考えることはあっても、手を休めるということはあまりしたくないってのは、ぼくは。 | 山北作業所の居間、朝、テーブル、ナレーションが終って、海老塚さん来て座りコーヒーを飲む、暫くいして話し始める |
e「その、だから、職人さんは障害を取って行くわけですよね。」 s「ショウガイ」 e「障害、プリヴェンション(prevention)を取っていくわけですよね。」 s「障害ね。」 e「ところが、作家はプリヴェンションを作って行くんです、敢えて。」 s「ああ、なるほど、なるほど、次々に出来ないことを自分のなかに、、」 e「そこで考えられるわけですよ。だから、絵描きさんでも同じような絵ばかり描いている人は絵じゃなくなってるんですよ、もう。芸術じゃなくなってる。」 s「出来ることの方に行っちゃうから」 e「楽だから」 s「凄い分かれ目ですね。」 e「分かれ目というよりか、だから、それは態度の問題であって、姿勢の問題であって、」 |
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e「だから、昨日も言いましたが、連続している必要はないってことが重要なんですよね。プリヴェンションを作るってことは、連続いている必要はないんだ、連続しているのは、わたし自身が作っているということが連続しているだけであり、ということであって、そこをはっきりしておかないと、なかなか難しいんですよ。人間が一つの考えに向かって進んでいると思われちゃうと困るし、様々な考えがあって、それがコンバインされて行って、また違う物が生まれてきたりっていう。で、捨て去られたものも大事だし、捨て去られたものが何であるかも覚えておかなければいけないっていう、そこからまた拾い直すということがりますよね。 | ||
僕はよく捨てちゃいますよ、若い頃の。取っておけないし、燃やしちゃったり、下のストーブの薪になっていたり、」 s「えっえっっ」 e「はい。」 s「燃しちゃうんですか。」 e「はい、だってしょうがないじゃないですか。それより暖かいほうがいいし、だけど、僕の作品はプランが全部出来てますから、図面がありますから、その頃の作品は、あの、素材が何、この木でやる、あと、大きさだけでやってますから。だから、それはいろんな方法があっていいんで、ただ、僕はあの、やっぱりあの、残すということにだいたいいまでも余り興味がない人なんで、生産の方に興味があるんであって、僕が生きるために、こないだから言っている、遊ぶんですから、(S「諸害もそうですね」)そっちの方が大事なんであって、」 s「出来ないとなるところに自分を持っていく方が大切で、もう出来ちゃったものは」 e「だから、題名も覚えてない、ひどい言い方をすれば。」 |
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