詩集「世界の終わりのまえに」

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町ゆかば

町ゆかば




そとぼりの浅い水に魚がふえはじめた。
橋からその日の砂の堆積が見おろされる。
家具屋が行列していく。
授業の終った小学生がいそいで
釣り人のうしろの黒い魚籠を見にいく。

銛がかくれている
先端の金色からしっぽの黒煙まで
白い壁のカプセルにつめられている。
蹴る人のこない横断地下道で
タイルにビラをこんどはべったり糊づけして
赤いインクを今度はつかったのだ。

ハイウエイがなげだしたひげ根一株。
曝されたものと微風にのったものと
夕暮時には木工場までが住み心地について考える。
紫色に、そまった大気が中心街の九階のビルのうしろから
西へ全然揺れないでふくらんでいく。

ひどくこげている誰かがいるわけじゃない。
口笛を吹いてききめをたしかめてみてもいい。
丸太に坐って肉を噛る集会にどうぞ。
とんがり帽子で宗匠たちがやってきて焚火しはじめる。
欲しいと両手の指が動いてつかみかかる。

同じすきまで学生部長は毎夜のんでいる。
きつい襟で鼻先がごそごそする感じがしないかという。
ものすごくふとい指がポケットじゅう兇器にして
ついに脂肪がこぼれだす。苦渋の口授をつけてくれだって。

ずぶ濡れも気にしないので困る。
濡れた耳がたれていく 雨水がもって
坐礁 ここで戦隊の名誉のために倒れておくれ 町ゆかば
巨大なフラッシュに囲まれたゆきさきに入っているのだ。


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