詩集「気球乗りの庭」

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燃える台地

燃える台地





まえぶれが雷雲のすこし前をはしった
汗をかいて木の実がついてくる 途中どうだった?
おや 最初のオーロラがもう峠を越えはじめた

のどを大きくあけて風をいれた
芽の最も多い地を知っていたのかと思った
枝の両側から射す逆光の間を昇っていった蟻たち

田の中で立っていた人にやはり落雷したのだ
あわただしくタンポポの花弁が開閉を繰返す
粘土についていた靴跡がゼリーのように蠢く

期待でバネ落ちした車体 宙釣り遊びのハンドル
前方不注意つみ重なりのバンパーの間へ潜り
カーラジオの雄叫びに会う 艦隊の解体に出会えであえ

黒い燃えかすをかぶった茶畑で息をする
ねがってもないおでかけのひよりに来てもらったのに
途中でもいいさ 釣針にそこのミミズを早く!

蚕のみどりのまどろみも験したんだったな
ゴムシートの経帷子にいまかぶとむしのペイント中
できあがったら蝿の此方へ突込んで糞の中で眠る

この間の温泉旅行は汚染したどうしでよかった
小銃の弾みたいに話が何でも合っちゃうんだ
冷やそうとばかり空の高みへ跳びこんで

葵の種子をのこすまいと片足でけんけんとび
あしもとの黒い箱にはハイヒールの踵の穴がつづく
そう遠くへは行ってないだろう くさい小山がみえる

雨滴をきろう せめて適温を思い出して
燠火からの速さにあわせよう けれどかちかち山の
残存の地峡がここなのだけれど




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