詩集「目盛りある日」

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航跡ながめて

航跡ながめて





触れるとそのたびに笑声があがる
ほらほら近づく指先に目をこらし
みがまえてまるい手足をばたつかす

あなたにカプセルを合せる日
穴だらけの毛布をかかえてあなたはこのまま
寸法をとれといってきかない

指や首の穴の直径は決まっていても毛布の穴とは違う
そうして剥ぎとられた裸虫を
キャンデイストライプのカプセルがぱちん!

汗と恥で曇りはじめると
サーモスタットが入って適当に拭う
真昼の砂漠にいればその音が聴ける

あなたの体積を知ってから
お菓子の小麦粉バターを何グラムにしていいか明確
少し多めのミルクを添えて出す

集積所では脱皮殻でなく枯死したカプセルが
パネルトラックに積まれ焼却所へいく
ペインティング色褪めて砂を漏らす

あなたの目をむく渦巻模様
中で昼寝の顔は仮面をひしゃげさせたもの
御両親によく似ておいでですこと

裏の山には先祖代々の殻の塚
おじいさんの最後の殻の上に積みなさいというと
五色の自分のカプセルを海へ蹴って遊ぶ

みんながそうして遊んでいるね
ひびの入った殻のこすれ合う波に埋まった
海を眺めるなんて誰にたのしい?

変化は腰に巻きつけたゴムのバンパーで
衝突がおあそび
隣家との間の川の橋がゲームコーナー

唇はやはり切れてそれでも勝手に治すという
押しあてたティシュは血もとめない
ふたりとも黙る

部屋でウォームアップして再起第一戦
畑の道を加速してくだる
しかし隣りの子も現われず拍子抜け

生えはじめた鱗いちまい
これだけ貯めたよと座敷であけてみせる
発射の補助券が一回の枚数に足りている

そこで髪型など整え
見送りの目にオレンジの航跡ひいて
心に決めていた海へ射ち出されていった 



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