詩集「目盛りある日」

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ロケーション

ロケーション






到着の時の癖でカーテンをあけてしまった
見せられないという張り幕を
高くかかげた泥の沖の小島が
ドライヤーを横腹にあてて応急仕上げ中

鍵穴で回転してうなるこの地の鎮魂歌は
鍵束のように目をくぎづけるには役立った
嬰児スパイが全部の手突きだして接近の間
耳栓を忘れないのもよく見てしまった
ということ 花柄のバスルームも地獄の一室

いやあ そんなふうにはとらんでください
おなじみの胎内にいるように寛いでくださって
いろんな決心はそこの漏斗へどうぞ
ここで初めて目にした亡命猫は
この間にも非常階段をいちもくさん
彼女が入れて貰えなかった窓はなかった そういえば

星のつんのめる誘導路を
墓の大群がゆききし踏みかため
光の瞬きはここから見てもなさけないものになった
静寂のシリーズをかち割る虫歯大崩壊
あまりの痛さにうすめあけたままでいると
なめくじ状態のわたしの主要な筋肉の裏切り
ドアに栓するならいをすてておけばよかったと思う

網目の影おとす頭上の踏板に
あれば翼の破片か 首をのばす
国境の南まで吹流しは垂れたまま
締めた箍が青空をひっぱる
けれどねえ 切片の見せものは
コインを投入したばかりのテレビにも映り
いまに白い羽根の一枚もつれて風が画面に入ってくるはず
水平線の乱れがでがらしの希望をさわがす

ぬき足さし足白装束息つめたいもむしごろごろ
テーブル中央のポットに運命せかせる白手袋達す
ルームサーヴィスをたのんだの誰ですか?
なにごとも遠巻きでまいろうと
渦巻出入りの旅の半ばに申し合わせたではござらんか!
からむ糸巻きの入ったバッグをひらいて
唇をきつくしめた冬の裁縫人は
溶解した襟口に針をもっていく
この弾痕は誰と誰がやり合った結果かよくわかるよ

歪んでいようが窓外を見てるつもりのうち
放置しろ 朝食はいりません 腫瘍はドアの外に出しておきます 寒い
天気予報だけはサイドテーブルを転げまわる
ばくち打ちみたいなペンもいたたまれない
夜毎の夢の女はおなじみ脱出口掘りはや幾夜
雨も槍も降る城壁のねもとでぐずぐずやっている
こんなもんもやはり片附けねばならんなあ
土を噛み石を飲み納めた地元のわけしりは申す
夜明けの冷えこみに
たしかオレンジ色のタオルケットを胸にひきよせる

がんがんと耳もとに鐘楼は鳴り日はたかい
コンクリート生乾きの時代から鐘は揺れつづけ
だまって目をつぶればスクラッチの輝き
誰にもきつめに合せた安ホテルにいて
一人どうしのNGくさい殴打にふけると
表通りにカーチェイスがあって
火だるまのドライバーたちは
噴水の池を回遊している
今日も何かの日というほどの日ではないのだな
レースのカーテンが急に天へふくれ上る
これが景色なんだって



webページ制作者注:本文中の「箍」の字は、詩集では手編が木編なのですが、辞書でも見当たりません「たが」だろうとこの字を当てます。
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