詩集「羽根の上を歩く」

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地がため

地がため





チョコレートバーにも花が咲く
蟻タイプ噛み跡のすずなりは
ウエハスの半欠けプラカードを浮沈させながら
とけてながれてるつぼへくだる


肩をかつぎ槍をかつぎ四股を踏んでなにがなんでもはじめは地がため


食器間の抜け道を通い慣れて
てめえの匂いのやっぱりくさいこと
抱えた缶詰の重さの分だげ
スニーカーのトレッドパターンは深く沈み
大丼に仰向けの愛するあなたは
口で噴水をとばす


槍の穂先を足の爪先すれすれに狙いつけて


ソファ上の唇のように砲口が締まる
クッションの下で引金が鞣され
起きるとしたってたいしたことは起らないと
宣言しては回想録をつなぐ
カーペットの裏を駆け回るでこぼこ
ひらべったい そうありたい
脚を揃えて3・2・1・O


天がぶらさげる水平の槍に両手開いてつかまって足で踊れば……


佇み眩み
これから暫時 靴紐を結びなおすふり
誰にも見破られて
雪上の大焚火を近づけられ ああ、いい
いってよければ境内を
ベッドでいっぱいにしてくれといいたい


氷を均らして砂を撤き
彼岸とこっちの間を藤蔓で仕切る
ひとのゼラチンの煮こごりプールから
挽き残された臼歯がつりだされていく
座席にうつぶせている間に
シートベルトを一本余計に頼んでみるのもいい
腋へ食いこむ杭が
空気発条よりも頼りがいがあるという古い約束ならば
隣接の空洞で発効する


太鼓が鳴ると谷の向いの山腹の窓辺で歯刷子がコップを鳴らす


なんのかんのいっていいというわけは
赤白の襷が抑えにまわってくれていて
腰のひねりも眼玉の裏返しもしたい放題
ということから鎮まりかかった心はせいぜい
すみずみ四隅に
オーバーナイト・ステイして
核まで明るい
握ったものはまだこんなに


眠れば充填 踊れば拾得 滑って転んで箒の目
ヒーターの利きすぎに開けた窓を
早朝の天気予報が通る
床の間のお面を指先で射つと
乾いた音をたて
親しげで見飽きた眼がおっこちる
知らないよ 車へ戻ろう

火の王も水の王もしまいこまれ
「これで今年のお祭りは終りました」*


                    *二月二十日 西浦所能観音堂にて



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