詩集「羽根の上を歩く」

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スケジュール表によって

スケジュール表によって





トースターの穴のくらがりから
こんがり焼けた溜息が洩れる
食いたいだけ食ったあげくの虫の息というのが
鉛のシェルターに入るまでの
変更なしのスケジュールであった
炭化した胎児がへその緒の火を揉み消そうとしている
   ということは これから起るすべてに水と蓋がいる


灰は残っていつまでも灰
ハイと答える鉛の床下のネズミは
灰か鉛かどちらかの牙を持つのだろう
蝿が料理ブックの写真の皿のふちで蒸発した肉汁を追っている
あぶり出されたまま消えることのないこの世の一駒
フレームや国境は焼死体をぶら下げて置きやすい
   ということにならないように おまえには水の棒を含ませつづけ 眼を出せ槍出させ


袋の底でぐずつく火種は
押し寄せる愛の強弱に準じて盛衰のスタイル
袋に火が回ったらその時には
寄りそったまま焚き木の道行だとか
燠の暴走 墨汁の追走にも巻きこまれ
艶ある骸骨を袋に残したかどうか
   ばかりが 気懸りで パイの皮だという納得の仕方も教えたといわれればその通り


くぼみが骨をはねとばす
白くしかならない骨片に飽きたのだ
肉の残った肋骨がしゃしゃりでて
尖端の潰れたミサイルと重なって空を支える
屋上の千本のテレビアンテナの樹間を
ぬめりを残して這いまわった頃を偲ぶ
   こそすれ中空に漂う粉末が大願だ きらめいて


這々をマスター
コンセント共有の尻尾どうしだから
行けたところでせいぜいがお月さん
これも星だとしたら大圏になびくアオミドロの揺れを見習い
石が転ぶから苔よりひどいことになるのは必至としても
まずは揺籠のぬいぐるみほどには支度済
   までいったからといって 不明の暴風にちょっと直立してみようなどとは


せまい台所で踊る
流し台に貯めた次元や事件がとろけていく
隠した焼き串がいつの間にか脇腹から突きだしている
頭からかぶったサラダオイルを舐めとって
はやいとこアルミホイル内に逃げこみたい
いつまでもいつまでも密閉をたのしむのだ
   として 起きている以上は 今朝の卵はスクランブルでと思っている以上は


ふきんかけにぶらさがって屈伸運動
唾液もかさぶたも名札のふち飾りに残り
あとはお腹の皺にすこしばかり貯めたものが
鳥に狙われる心配をするならする
タイルにこすれて熱くなったところを感知されて
叫び声はラブコールに分散混入される
   わけだから 悪夢のエンドマーク前に思いきりわめくとしよう


缶ビールをあけるたびに指を切る
テーブル下に待つ唇に与えるよりも血はじぶんで吸って
鉛の壁をこの空缶と皮膚でコーティングして
台所の解放宣言に両手を拠出して
まずは焼けるにまかせ
灰は捨てるなんてスコップで上からかけ直すのが途
   とかまあそんなところで 灰まみれの缶ビールというのはうまくない



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