詩集「公会堂の階段に坐って」

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布覆

布覆





木の枝で掃き あけておいた空 なのだが
塩と雲の柱が渦巻く だったら
これから子宮を出ようとする宇宙艇はひき止めよう
星のあいだに繋船する習わしなど もういい
こうして横揺れもしらないキャプテンは
航海終えたつもり あたりを領空としようとする
誰のためと問うな なども
もう聞きたくない

古くより台所に退き
飛び込んだトビウオをさばいて過ごすもの
時を問わずの休止に
背嚢から替えの貝殻を出して眺める円い背中
息継ぎは慰めのチャンスで
その時は水に浮いていて
この先の角の衝突に一回転して助かること
からっぽの緩衝地帯に塩運びなどに行く
それはそうしておいて

はめ込む空はわが身に似せて
歩けばついてくるね 影法師
蒸散しかかったオルガンの音のなか
ぷかぷか漂うソファの船頭にしてくれろ
櫂かく単純作業にこころえがある
暑いも寒いも言いつくしたし
ジグソー片に散らばった空だったから
身の粉も収拾しようというものさ

やっとこさの橋頭堡を
キャッ、とか、ダッテサァ、で落とされる
答えちゃいけない
こちらの湯船はあちらの棺桶
サイズ試すといったものじゃない
家具つき家族つきのシェルターの表札
読まれたことがない
脱殻した殻を溜めただけ

逃げる帆の一目散には
投げ込まれる慈悲のペットボトルも利かない
裂けてしまわないために帆に水やりして
髪に追い風 掌にはおしめり
というのは世紀違いの勘ちがいで
そのたびにお祭りは長続きしたけれど
花火が花火を孕むほど
虚しく飾ることになっていた

行き過ぎて景色をバックさせる
青空は青だけ 楽でいいよね
内蔵の階段はいつか溶けてしまい
テラコッタの足首が
数珠つなぎで曲線を描いている
そこらあたりに擦りつけた皮膚臭は
なつかしい探検行の探しもの
犬みたいだ
ブレーキ熱であしうらが攣つる

スーパーストアの平屋根に乗った全天の星座と
鮭の頭の複製がのったぺーバーバックの表紙が
なりゆき以上のみちゆきを教え
ひかれ者のぺっちゃんこは
十数えてはハードルをおどり越える
午後になるとやってくる雷雲が
退避壕の上に這わせた西瓜を叩き
クーラーまでも打ち破る
仰天したふり 稲妻に指をさし出したりして

それでもまだ予定の地に積んだ弾が暴発して
あたりいちめん掃き清められたりするので
シミュレート済のホリゾントを呼び込んで
境い目を消す作業は残っている
晴天に晴天を貼り
身がからからに締まっていくまでの日数
通過する簀の子の台と
さいごのプラスチック皿の数を書き込む




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