野村尚志詩集2000年11月

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部屋の近くの点滅信号に目がいく

部屋の近くの点滅信号に目がいく




どうしてなんだろう。夜の赤い点滅信号を見るともなく見ながら歩いて。どうしてちゃん
と人とふつうに話せないんだろう。ひとりでいるのが淋しいくせに、ひとりでいるのが好
きなのか。こわいのかなとも考える。心の底からうちとけあえて、笑いあえるような、そ
ういうことがあればいいのに。

赤い点滅信号は機械仕掛けだから、一定に赤くなり、点滅して。

(話しがしたいと思う、話しがしたい。

(言葉が言葉そのままで受けたり、渡したり、
(そのままのかたちで、はばで、言葉が言葉そのままで
(届いていると思いあえるような
(そんな関係がほしい。

点滅信号は見ているとやすらかな気持ちになれて。

二階のこの部屋に戻ってからもしばらく窓から見ていた。
畑と民家の、ほかにあかりのない夜道の
十字路の

軽自動車が一時停止してゆっくりとまた進みだした。民家ですぐに見えなくなった。

見ているとやすらかな気持ちになれて
これが夜の自分の心臓なのだと、呼吸する夜の自分の心臓なのだと思うことにした
これが夜の自分の心臓なのだと、たわむ電線と地面に反射している赤い、点滅の、
これが夜の自分の心臓なのだと。

(ほんとは大声あげて泣きじゃくりたいのに、泣くこともできない。

カーテンを閉めて
ああ、あれが夜の自分の心臓なのだと

ねむる

少しだけ
目を閉じて、ねむるちいさな舟になる



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