野村尚志詩集2000年11月

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点々と

点々と




一人で暮らすおばあちゃんの家の隣の福崎のおにいさんは、部屋に閉じこもり仕事をして
いる。ときどき夜となく昼となくロケット花火を部屋の窓からぶっ放す。音がする。おば
あちゃんは恐れる。おにいさんにしてもどこかへ向けているわけではないのだろうが、福
崎のおじさんの話では、あの子はむしゃくしゃするとロケット花火、なのだそうだ。すか
っとするのだそうだ。

京都の山科のスーパーで働いていた半年のあいだ、よく目にする人たちがいた。ひとりは
オレンジのヤッケに身をつつんだ、常に長い角材を持ち歩くおばさん。パートさんの話で
はあの角材を支柱にしてテントを張り暮らしているのだという。もうひとりは仕事が終わ
って一服しに行くベンチにいつもいたシルクハットの紳士のようなサングラスの男。あの
おばさんはしかし角材を抱えたまま棚と棚のあいだを、売り場を、ねずみのように練り歩
くので危険だった。さらにもうひとりは週に二度通院していた道にある電話ボックスのな
かに夕方いつもいた女。かがみこみ電話帳を見ていることもあった。その人たちが当然こ
こ遠く離れた北関東にいるはずもないのだが、とくにオレンジの服を着た人には敏感に反
応して、あれっという感じになる。

妹が死んだ。
妹はいなかったし、死にようもなかったのだが。死んだ妹のことを思い続ける。いなかっ
たから思いつづけられるのか。いなかったことにしているのか。一年と五ヵ月が過ぎた。
いや時々思い出すのだ。より正確には。

部屋の壁に布を押しピンでとめて垂らしている。身長分くらいの、片腕分くらいのあおい
布。この長方形の形に夜を狭く納めて広げて見ている。

(つちふまずが浮いている感じ。血が体内に流れていると感じるのはよくない。)

枯れ草の、
秋、アザミ。




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