私小説的処女キキの得意なお遊ぴ

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詩集『陥穽同棲又は陥穽への逃走』より

私小説的処女キキの得意なお遊ぴ




いやな感じの鏡の中の正午の私の背後から黄色いキキがやって
くる
するともう詩はだめだ、つまらない、なってない
キキの登場がテーマならばもういうことがなかろう(註1)
私ははつらつとした処女キキと遊ぶよ
睾丸ころがしでキキは私を包み込む姿勢を取る膨脹する面積のキキのからだが追ってくる
繰返す昔からの感覚は私だけのものだ
個人的に存在してさあ安心
親つき処女だから猥褻行為にも意味が生れて
スカートを先ずまくる
森の火事だ、興奮せよ
女便所奴
処女の股座は平和なので烏が遊んでいる
黄色いなめらかな涯から急に深い淵に
あわい恋慕が咲きそめていて
何事も忘れよう
風呂に行くのも止めよう(註2)
働くのも止める
飢は嘘をつぐませるなんていって
怠けるのなら黄色いキキに限る
心情旅行なんかに出掛けて父親と離れたキキを猥褻に沈める
男根を黄色いキキの処女膜を破って朱塗りの社殿の中に突込む
膨脹する女陰の草枕
走る嬌声と笑い声とに続いて
明るくなると
包み込み姿態のままの貴色いキキはなついてくる
今や処女膜の運命は明けまして
処女キキは私の内なる処女を徹底的に髪の毛を引張りけとばす
これが怠惰の平和な道行の実態だ
処女キキが私の内なる処女の正面から噂されっぱなしの革命を男形(はりがた)として便う
これが睾丸ころがしの実態だ
手淫の夜重ね
これが詩だからなってない
昨日の日曜日に松本君が来て詩の話をした(註3)
彼はもう詩を書きたくないが
ますます詩に誘われて手淫するばかりだ
そんなひとりよがりな
言語を台無しにするよ、と私はいった
それなら処女キキを貸しましよう(註4)
とにかくも実体だ
彼女が松本君に連れ去られた跡に猫が食べている
私は処女キキの朱塗りの社殿のいきさつを思って泪していると
どうしたのか恋情の原生林に踏み迷い(註5)
何処へ行ったのキキ
淋しいよキキ
女は貸すものだよキキ
新造のキキ
これは詩だよキキ
最早絶望的な黄色いキキ
私はでもでもキキを
松本君にゆずるのてはなかった
不安は襲い
後悔は猫のように顔をふって私の
毛むくじやらの心臓を完壁に食べた(註6)
ああそのとき黄色いキキが駅前を戻ってくるのが見えた(註7)
ああ処女のままなので
男根を黄色いキキの包み込みの処女膜を破って朱塗りの社殿の中に突込む
それでもやがて再生する処女膜
キキたる処女膜は色づいてくる
明るい包み込み睾丸ころがしの嬌声に
私は背後から処女膜に犯され
身動きならず
男子便所の中で平和を愛する正午の男となって終った


註1 キキは危機ではない。彼女はきちんと学校に通っているところをよく見られた。六月と十月には衣替えをした。彼女の将来ははっきりしおり、結婚式があって、家庭があり、性交がある。
註2 私は広島市三篠町に住んでいるとき、毎夜十時半頃風呂屋に行く。夜の街を妻と洗面器を手にして駆けるか歩くかして行く。冬寒い夜は腰を上げるのが面倒になる。行くのがいやだなあというと、妻はじやあたしだけ行くわよという、残されるのは淋しいのて結局私も行くことになる。
註3 私には松本君という友人はいない。
註4 自由に女を貸すのは面白い。しかし、何かがこわれそうで私にできない。
註5 厳島神社のある宮島は原生林におおわれている。
註6 ここでいう「心臓」は「まあ心臓ねえ」とか「心臓に毛が生えた奴」とかいう意味。
註7 駅前を行く人間の群は何といっても群で、具体的に人間が勤物てあることを感じさせる機会てあろう。



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