詩集「世界の終わりのまえに」

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坐りつづけて

坐りつづけて





町へかえってシャッターをおろした
合図のどの旗を出したらいい?
霧が窓をかため拳を叩く音をたてた
長々と溶接された馳け足のムカデがガス管を通っていった
とびこんだ形のままでいるのがいちばんよくない
気球 行く
分け与えるソーセージの匂い たれる黒影
氷結のあとで天気も仕組みも信じたくなったって

それともひなたで指先の曲るかすかな変化
膝をうつなみうちぎわの方をおもいおこす
かげろうのあと花粉のふりそそぐ
かつて翼だった台地を
てきとうに濡れて視界の広くなった瞳孔で巡航
艇をすてるものたちの片寄り 反対の舷側に
手をかけてゆさぶる敵の重い甲羅
いれものはこれだ 空虚な駐車場がおしのけたのだ
これだけつりかわをぶら下げてやっただろ

黴のマットレスをうちでつくろうといいだし
このまま坐っているのがのぞみだ?
屋根が低くスプリングのよく効いた町に坐り
筋肉の流出と夢のシーツ包みといろんなその副作用を知り
鍬でかきならされて飢饉もなくゴカイもいないことも耐える
スギナの中年男が堆積した河原
遊園地でけしずみがはじけ灰が殺到する
二段ベッドで腕が下の頭を打つ兄いよ銃をとれ





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