詩集「気球乗りの庭」

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中土佐町で老婆と話す

中土佐町で老婆と話す






金魚売りの小型トラックが来ている。ここをとっておいてよ と友
達に場所とりたのんで 駈けていく女の子。そんなにしてすくう
と 鱗が全部とれてしまう。金魚屋は五匹を向いの雑貨店へもって
いく。戻って餌を一箱もっていく。

ハマジシャの花のまじった一束がぐたっとなって入っている木のボ
ール。

できそこないの実はみんな落したイヌビワの葉の輝き。
ネナシカズラの白いレースを引きおろす鈎の手。

山へ上って草刈りして来た というと あの鳥の巣はどうだったと
すかさず聞きにくる。

あの枝の右に三つ左に二つ それから松の木のところに二つ よく
光って この間から何だろうと思って見ている。動いて生きてい
る というので目を凝らすと木もれ日なのだった。大きな鳥かねえ。

こわいもの 教えたら終いよ。

迎えの鳥。

曲り角ですれちがう。どっかこっちの方でお葬式が出る。知った人
なら知らんですまされないから行くと 言う。

賃で殺させる。うちへ帰らせてもらいますだ。

庭のカニの泡の音は更にわきあがる。うらから表から。

通行止の札の前で見張りのおばさんが あの樹はブルで引き落すの
だろうね と言う。奔流となった土砂が今はしずまっている。崖の
上につるはしによりかかって立つ五人の男。帰りのバスの向うむき
で停めてある待避場へやっと着く。



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