詩集「羽根の上を歩く」

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署名捺印

署名捺印






ぎざぎざと逃げまわるベビーサークルを追って 慣れなれのクルーズミサイルはいつ
もながらの走りっぷり 未だ被弾のしるしのないものを標的にできるとは嬉しいね 
渦中のトレーニングで 柱をまわる毎にあの仔も鍛えられるということさ(あそこの
障子のかげ蝿叩きをかざして待ち伏せの祖母にも いいことがありますように)


ふとり過ぎたものまで袋にまもられ 笑い声が切れめなく洩れる 縁側の猫を起こし
てしまい 鰯焼く煙がかき乱され 空の徳利が例によつてひっくりかえることがあっ
ても ともども等量の体臭をホイルしているから 続航(逃げ切りという突発事故が
ありそうだとかいわれたまま……)

    
次の間の風 襖を擦る椰子の葉の音 坐りこんであくびしたあと 鼠等満載の天井が
落ち 頭頂直撃のおそれにとりつかれるわたしが目じるしでしかなかったそのわたし
のかじかんだ胴の焼印はさらに縮み 蹠のナンバーの刺青が黝む 風通しの素通しの
穴を鉄条網が埋めはじめた


呼び集められた縁者たちはいずれの方もはじめのうち呑みこめない 事態は大いなる
繰返しだと声明が繰返しているのに あゝこんな目に遭うなんて(前世だってせいぜ
いそんなものだったがなどなど) 四角な座敷を楕円に走りまわり 程よい汗と擦過
傷のうちに畳が外れて盛り土がみえてくる


ディスプレイ用のアフターバーナーが蒲団からはみだしている(11フィート以内に接
近すると熱で変形することがあります)飽きてしまったのだ しかしひと晩ふた晩眠
らなくってもと引っ掴みスタイルの先祖たちは 日帰りの客を睨みまわす 夜露が真
赤目も真赤


シャンデリアに腰掛けた焼けぼっくり(番号刻印確認済)が落果しはじめる いまど
きなんだって落ちごろなのか? 暖炉にとびこんで灰神楽 この灰の気象が当分居す
わりそうだから 這って 焦げそうになるとちょっと跳んで 羽団扇の遠い援護を思
い 信心をプラスして なんやかんや足して


ダイニングキッチンにひしめきラインダンスの出番を待っている お尻に貼ったおお
うけのシールに小さく署名しながら暇をつぶす 鼻から電子レンジに逃避していたも
のも半身戻ってきている 忘れるほど昔に射出したラインひきは 舞台のむこうの端
までラインをひき終っただろうか


床下に茸じみた産声が湧く 潜航に飽きたマインドチューブが息抜きチューブに接合
してしまったのだ とぐろ巻きの泥の芯に最適(各種突起物設置済)この大円 縞々
の世界で透けすけをだんだら模様が被覆しつくす


畳の縁につまづいた祖母が 焼き鏝をふところからこぼす なんという安堵だ 花か
ら花へ斑紋みせびらかせて傾き加減もよろしく 追飛につぐ追飛(じゃんけんで逃げ
番を決めていた頃がはなだった)連結の鎖は皮紐となってしなやかにからむ



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