野村尚志詩集2000年11月

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秋になってしまった、それももう十一月だ

秋になってしまった、それももう十一月だ




「マンホールのぶあつい鉄に照り返された強い西陽が
 ゆるやかに遠のくようにして夏は終わる」

そんな言葉を片隅にして
秋になってしまっていた
それももう十一月だ

梅雨どき
(用水路を覗き込む午後のランドセルの小学生たち
(どしゃぶりの軒下の壁にへばりついていたちっちゃな蛙

夏前から職場近くのクレーンが気になっていた

寿司屋の出前持ちの私はどこへ出前に行ってもクレーンに向かって帰ってくるわけで、ク
 レーンの回りをバイクでうろうろしているのが仕事のようなものだ
クレーンも仕事をしているので、クレーンは斜めになったり、中折れしたりするのだけれ
 どもある方向からだと空に真っ直ぐに延びているように見えるのが、違う方向からだと
 斜めに見えたりして、そんなときはすこし気持ちが弾むのだ、これが東の高台にある水
 道塔との決定的な違いだ

ときにはクレーンはゆっくり回ったりもする

お盆休みでもこちらは仕事だったがクレーンは休みで現場構内に横たえられていた
私は一体どれくらいの長さなのかと歩幅を歩いてみると五十八歩か九歩だった
途中で少し数え間違えたかなと思うからなのだが
もう一度歩くこともないかと思ったので仕方がない

しかしこのクレーンが気になりだしてからよく見てみると
結構この街はずれにはクレーンが立っていたり、建設があったりするのだ
長い小川に沿った小道と少し離れてぐねりながら平行していた道との間には鬱蒼とした林
 があったのだが削り出されはじめているではないか、どうもその林にはバイパスが出来
 てということは道路際にはやがて住宅ができたりして来るのだ

(大型スーパーなんかも出来るのか

林と小川にひかれて引っ越してきた
私の静かな暮らしの部屋に工事が進んで道路が忍びよって来る




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