野村尚志詩集2000年11月

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夏雲

夏雲




 遠くまで歩いた田んぼ道に、古い釣り堀の看板があって釣り堀があった。釣っている人
もいないし、よく見れば水もほとんどないのでやってないのかなぁーと思ったが、食堂の
窓からのぞくとおじさんが椅子に座っていたのだ。おじさんも驚いたような顔だった。「
釣り出来るんですか」つい余計なことをたずねてしまった。にこやかに表に出て来たおじ
さんは植木に水をやりだした。「竿がないと、釣り竿持ってこなくちゃ」。食堂の隅にド
ラムセットが組まれていた。閉店後たとえば息子が叩くとしても、釣り堀にドラムセット
はへんだ。カレーライスとかラーメンとか、貼り紙があったけど。
「それじゃあ」「うん、竿持ってね」なんだかおかしな間だったな。空は夏雲が広がって
いて、数えきれないくらいのひまわりが咲いていて。



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