野村尚志詩集2000年11月

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爪先を見ている目

爪先を見ている目




自転車に乗っていて
すうーっと、
目を閉じてペダルをこぐ二三秒
もう少し長いあいだ目をつむったまま走ってみたいなと
思うことがあるな
と考えている

床に横たえたからだの上を
でこぼこみちの
水たまりをはねる自動車の音がすべっていく

すべるにまかせてもいいが
二つの爪先に
水たまりの音をあつめることができたらなと思う

蛍光灯から下がるひもが
点に見あげられる位置にからだをずらそうとしたが
ひもは曲がっていて点にはならない

頭のなかのことばを
口のかたちに変えてみる
気をつけて
声にならないように
口のかたちに変えてみる

続ける

床によこたえた
からだ
爪先

声になったらなんとなく
悲しくなるような気がして



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