小沢和史詩集2001〜2002

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ペンキ発情期

ペンキ発情期








 暴れるな

 ここは沙漠だ

 もがけばとたんに蟻地獄の昼飯だ



 

 ニッカポッカの現場監督が

 次から次へとペンキ缶を送り込む

 陽光降り注ぐ春の遊園地で

 胸の穴から大量のペンキを吐き出し

 直径三十メートルの海を塗っていく

 嘘つきの海辺の向こうには

 荒くなりかけた波がある

 あれは本物の海だった

 その証拠に、

 さっき吉田君がウニを拾ってきた

 結局そのウニは誰も食べなかったけど



 シンナー臭い春の風

 現場に迷い込む花粉達

 発情の季節に漂う奴らは

 ファンタジーの海で行き場を失うと

 事もあろうに

 俺の目玉に受粉した

 膨れ上がった目玉の奥で 

 蟻地獄がうごめき出す

 たまらず俺は目玉掻きむしり

 自棄糞に刷毛を振り回すと

 「何糞っ」と叫びながら

 頼まれもしない鮫の絵を描いていた

 

 それを見兼ねたのか(惚れたのか!)

 バイトの女学生、刷毛を投げ捨て

 可愛気なため息を作ってみせると

 舌べら、ちょこりと突き出して 

 俺の目玉をぺろりと嘗めた

 彼女の真っ赤な蝸牛が

 俺の視界を愛撫して

 獣の海を泳いでいく

 現場監督の刷毛から滴るのは

 春の色彩に発情した俺達の精液だ



 ぺろぺろとその先に行ってくれ

 ぺろぺろとその奥を触ってくれ



 塗りたての色に犯されて

 不様に溺れていやがれ







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