小沢和史詩集2001〜2002

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プッシーダイナマイト、虹の彼方へ

プッシーダイナマイト、虹の彼方へ






 

土手の泥に滑って 薄ら笑い。

青い合羽の自転車にぶつかって 薄ら笑い。

あら、奥さんご免なさい。

エヘヘ笑いでご免なさい。

当たり前の視線にやられた。

こんな時はおとなしくしてなくっちゃと

靴を履いてしまった。

出て来てしまった。

傘の中から覗く俺の目玉が

小雨の風景にシャッターを下ろす。

「くるくる渦巻きの所」

「野良犬と飼い犬が集う所」

「不吉な臭いのする所」

気がつくと俺は見知らぬ家の庭にいた。

そこには濡れた紫陽花が咲いていたから。

あら、爺さんご免なさい。

エヘヘ笑いでご免なさい。

「しかめっ面の奥で花咲く所」

当たり前の視線にやられた。



やがて、俺の顔は風景に吸い取られてしまった。

顔を失った俺は雑色商店街で、しかみ面の鬼面を購入。

部屋に帰ってさっそく被ってみる。

そのまま階段を昇り降りしていたところ

電話のベルが鳴った。



「もしもし顔無しですが。」

芝居がかった顔無しの台詞が匿名希望の沈黙にしみわたる。

受話器を耳に押し当てて、午後の無言電話。

鬼面の下の顔無しが匿名希望の息づかいとつながった。

行き先を忘れた二人の沈黙のその先からは

雨の音が届いてきます。

あなたと僕の沈黙の愛の証に

光の届かぬ階段に

マイクロフォンを置いておきましょう。

録音ボタンは君が押しなさい。

「そういえば、」

そういえば、

僕には顔が無いが、  

匿名希望には名前が無いのだね。

そんな事を告げると匿名希望の電話は一方的に切れた。

何故一方的に切りやがる。

二人の罪はこの部屋の埃のように

ただ空を漂い罰を受ける事もない。

やがて、僕らは薄ら笑いを沈黙で飾り付け

再び町を歩いて行くのでしょう。

何故一方的に切りやがる!



  

 親愛なるあなたの無言



 僕ら夜釣りに行きました。

 海に投げ出された男根が三本、

 波の音を聞きました。

 釣り具屋の犯罪人のようにたくましい顔面が

 サンドバックのようで、

 オコゼの背びれに刺されたあいつの親指が

 月明かりに照らされて、

 ぽっこりと勃起したのです。

 あいつったらそれを見せびらかせたりして、いやらしい。

 海水に濡れたプッシーダイナマイトに押し当てる気だね、      

   いやらしい。

 そんな親指のまま、コンビニでぬけぬけと缶珈琲を買うな             

   んて、何たるハレンチきわまりない夜だ!



 ねぇ親愛なるあなたの無言

 窓を開けてしまいなさい。

 夜明け前の一番闇が深まる水平線に 

 虹が架かるかもしれません。

 あなたのママが話してくれたお伽話のように

 虹が架かるかもしれないのです。

 防波堤をぶっ壊せ!

 防波堤をぶっ壊せ!

 壁にもたれないままでいた。

 

 追伸。その後、鬼面は被ったままです。その下の薄ら笑いも止まりません。









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