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詩集『石の風』より

エスカレーターを走り降りる男
A Man Running down the Escalator

(There is the English summary of this poem in the end of page.)


ネクタイを肩になびかせ
エスカレーターを駆け降りる
その男。
思考の、ここを、乗り越えようと
若い女を、ひとり
男は自分の頭の中に、登場させます。
(そして、読者であるあなたは
この男になりかわって
好きなタイプの
若い女性を思い浮かべてください。
でも、ここでは清純タイプがいいですね。
スーツ着た今年入社したばかりの女子社員。)
男の頭の中の
その娘というのは、毎朝
勤めに出かける前にすることが
勃起した男根をまるごと記憶に焼き付けるために
生々しいペニスの写真を見るっていうことです。
彼女は税関をすり抜けたメイプルソープの写真集を持ってる。
通勤電車の中での
敏感な身体を持つ若い女の空想の中に
男性性器のイメージの実感を想像することがその男には必要なのです。
彼女が、車内で洋服という布で包まれた男たちの身体の肉の塊に周囲から押されて
特別な男性性器を思い描いている
そのイメージの男性性器が
問題なのです。
イメージの力ですよ。
ここでは、決して言語ではない。
彼女は、金銭に操られて生きている若い男を侮蔑するために
とびきりの力強い男性性器を空想する。
空想するのに必死になって吊革に掴まっている。
瞑想の中で男根はそれだけで生きものだ。
彼女は、イメージを実感して
心臓を昂進させる。
その現実の交通機関の空間で
言語と
イメージと
貨幣との
関係を体現した主人公が彼女だ、と
男は自分の思考に興奮する。
解き明かすのが興奮だ。
国家という単語を意識してないが、「国」の中の「家」の中で生まれて、
言語と貨幣の中で育ったというのが彼女にとっての国家の実体だ。
彼女は、女だから、自分の空想の男性性器を誰にもいえない。
身につけた言葉にできない。
しかし、いま、彼女は現実には存在しないイメージというものを
自分が持っているのを自覚する。
イメージは沈黙している。
沈黙の中では、彼女は裸体そのものになる。
鏡に自分の全裸を映して
自分自らイメージに変身する。
自分が沈黙として存在する。
それが、給料日の金額の数字を撃退する。
それが、事務室の机の配置にへばりつく奴等を撃退する。
イメージは紙幣に打ち勝つ。
彼女は通勤の電車の中にいて
自分の頭の中では、自ら紅潮した全裸になっている。
これは、男の思考としては平凡な成りゆきです。
しかし、イメージは回路を持っています。
イメージは戦争を起こし、テロ行為を呼びます。
つまり、自分の頭脳の中の若い女の頭脳の中の全裸の女体を
繰り広げながら、その男は
地下鉄の永田町の下りエスカレーターのステップを
走り降りているというわけです。
東京の地下鉄の乗り換えには充分気をつけなければ
とんでもない距離を歩くことになりかねません。
動くエスカレーターの上を走り降りるスリルに
その男の脳髄の中の女が空想する彼女自身の全裸の姿は
いつのまにか、昨日の昼間抱いた「さっちゃん」の全裸になっていたのです。
そうなれば、男はさっちゃんの陰部が分泌する体液の臭いまで
記憶に甦らせて
もう、どうしようもなく
さっちゃんに逢いたくなっているのです。
エスカレーターのステップは二段飛びに飛んで行こう
と、そこで男は時間を縮めにかかります。
脚で速度を上げる
その男。

The words of this poem develop the thought of a young man who wants much hope for his own life. Running down the escaletor in a subway station, he is having an image that a young office girl makes fight up the image of a strongly erected penis against the men who seek only money and cling on their position in her imagination on the morning way to her office. The image of fighting girl lets him recall his lover whom he met last night. The poet intends to write the power of imagination, and the importance of having imagination.



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