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詩集『石の風』より

独善饅頭を食べた人たち                   





独善饅頭が売っていた。
出店に映る
新緑の、
やっぱり、やっぱり、やっぱり、ね。
言葉を信じていたっていう、
屋根の下。
信じるって、言葉なんだ。
独善饅頭の存在。
それだけ、
見たことないことが、
言葉だけで教えられていたからね。
連れてきた女の、
白い指が七宝のほそーい柄のスプーンを舞わせて、
寒天を
すくう。
どうなってもいいや。
このからだ。
甘いのが好き。残らない。
すき、すき、すき、すき、すき、すき、すき、と羽を広げる、
ねえ、ここ、触って、言葉だけじゃ、やっ。
静かに。
小道を行くと、さわやかな風の中、もう終わったんだなあ、白い、
さびしい、でも気楽、眼を伏せていて、きれいな顔、美しい、火薬
の小さい固まりを鞄の隅に持っていたなんて、残ったからだを一気
に吹っ飛ばしてしまおうなんて、このさわやかな気風を乱してほしくないな、
みんなが食べるよ、饅頭って、普遍的、小道を行くと、
あなたはつるんとした寒天の方だね、
やっぱり、やっぱり、やっぱり、ね。
比喩の元は心の中にあるんだから、
離れたままで抱き合えるよ。
皮に包まれた
餡こ
こうやるんだ。
動きたい気持ちを押さえて、目をつぶって、息を長くして、息を長くして。
眠くなって来ちゃった。
薄いからだを、ゆっくりと伸ばす、
新緑の、蛙が一匹。



裸がすき。
風とか、
水とか、
皮膚で流れを感じて。
独善饅頭、それを食べてしまえば、狭い家の間を抜けて、笑いながら、
素っ裸だから、笑いながら、ぶらんぶらんする、胸で、股で、
ぶらんぶらん、笑いながら、ほーら、捕まえたくなって、手を伸ば
しちゃう、風の中に、そして水中に拡がる。



ひとの心を支配するのはおもしろい。
ひとのからだを、思いのままにする。
畏れさせて、言いなり、
怖いから、言いなり。
人が怖い、男が怖い、心に焼き付けられている、怖がる女の
踵まである髪の毛を掴んで引きずり倒して、頭を地面にこすりつけても、されるままで、痛さに呻きはするが、刃向かうことはない。
何で、そんなことするの。
安心させるため。信じ切らせるため。服従するって、すごい、安心。
瀬戸際で、からだが心を助ける。犬を飼ったてたことがある。
饅頭を投げて取って来させる。
腕を広げて、仰向けになれ。
顔に水をかけて、薬缶で口に水を流し込んで、せき込ませて、苦しませ、立たせて、逆立ちさせて、性器に触る。擽る。擽る。指先で擽る。
性器に触るのが、一番おもしろい。
感じやすいし、恥ずかしがるから、崩れる。逃げる、捕まえる。頬をぶつ。立て。
また逆立ちさせて、触る、擽る、と、崩れる。
もう一度、逆立ちさせて、触る、擽る、と、崩れる。
一体になって、心が融けていく。
座らせて、女をおもちゃのように、抱き寄せ、髪の毛を撫でてやる。
長い髪の毛を、優しく撫でてやる。
身の丈もある髪の毛を梳り、梳るうちに、瞳から溢れる泪を口で吸い取る。
髪の毛が、こんなにも伸びて、流れ星の尾のように伸びて、伸びて、好きだから、好きだから、泪が止めどなく溢れて、溢れて、燃える頬を冷やす。
夕方の部屋の暗がりに、女の細い体躯は光っている。



二十年も同じところに勤めていれば、
薬缶というのは、焼けこげていても、お湯は沸かせる。
その関係がこんな関係になって、中指と親指をくっ付けて見せる。
そりゃ、きつねだ。で、あの女、辞めちゃったのよ。誰も知らないと思っている。お偉い方と豚のように食べたのね。
食べるときって、つい信じちゃう。
胸に刃物傷があるの。美人なのに、ね。
そんな話と、まるっきり無関係の「あたし」。
連休の先週、あたし、ひとり歌って自転車で、新緑の崖の下を走ってたら、上から太い青大将が落ちてきてね。
臭いんでしょ。
草むらに、逃げ込んで行った。白いヒメジオンが揺れてた。あの花があたし好き。
名もない花。
可憐な花。
名もない花。
可憐な花。
名もない花。
貸し自転車を借りたのが失敗、と悔やんだら、それがよかったの。
同じ道帰るのがやだと思っていたけど、同じ道を戻ったから、会えたのね。
また青大将。ではなくて、カメラ片手の素敵な人。あたしの全身を撮ってから、独善饅頭を一緒に食べて、餡こが田舎のお婆ちゃん風。あたしは、もう二十年前に戻って、おぼこ娘。 夜は、飲みましたよ、飲みましたよ、四十過ぎた女のおへそに注いで、啜って下さってね、舐めまわしてくだされてね、名もない花は散ったのでした。
あら、やだ。
子どもの頃、夏の熱く焼けた河原の石に上を、ふとーい青大将が、
するするって滑っていったのが忘れられない。
ふとーい、ふとーい。
太いのは、いや。



論理問題。
この世は、饅頭を食べた人と食べなかった人とに分かたれる。
饅頭を食べた人は、独善饅頭を食べた人と食べなかった人に分かたれる。
さてその次、独善饅頭を食べた人は、その後四時間以内にセックスをした人としなかった人に分かたれる。
独善饅頭と四時間以内のセックスの両方を満たす人は五人だけ。
セックスは饅頭に包摂される。
饅頭に独善を付けてセックスを包む。
中に、餡こを入れるのを忘れないでね。


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