internet and poet
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インターネットと詩人

HyperText版
(日本経済新聞1996年4月14日掲載)



                      
昨年の暮れにインターネットに接続して、あ
ちこちのホームページを見て歩いているうち
に、一ヶ月ほどして、自分もホームページを
開いてみようという気になった。モデムの不
適合にさんざん苦労して、やっと開いた当初
は、自分の部屋の中のディスプレイから、そ
の時の富士山の姿が見 られるとか、シェクス
ピア全集がネット上で 全部読めるとか、自分
が受けとめることができる情報の広がりに、
連日驚きの連続だった。ところが、そのホー
ムページの渉猟が、大きな組織が開いている
ところから、だんだんと友人知人が個人的に
開いているところを巡るようになると、自分
でもホームページを開いてみたいという気持
ちが湧いてくる。そして、わたしも、一月の
末に「ホームページ入門書」を片手に 「Shir
ouyasu's Homepage」というホームペー ジ
を開いたのだった。
現在、わたしのホームページは「RING LINK
RIP」というタイトルをつけて、内容とし
ては 「極点思 考」というハイパーテキストの
短いコラ ムエッセイと、十 一編の自作の詩
昨年出した写真集の写真を入れて、
詩人たちやその他の面白いホームページに
ンク
を付けて流し ている。この自作の詩の中
の七 編には英訳をつけ、また八編は縦書きで
読め るようにしている。四月一日現在でアク
セス 数は一〇〇〇を越えた。
「リング・リンク・リップ」とタイトルを
つけたのは、ホームページの存在はリンクに
よって支えられているが、ややもすると知人
友人の輪の中を堂々めぐりする傾向があるの
で、それを破って拡がって行きたいという気
持ちを込めているわけである。インターネッ
トは、リンクを辿って世界中のホームページ
を渉猟して歩くのが、一番楽しい。わたしは
知り合いの詩人の五つほどのホームページに
互いにリンクしてあるので、いつもの散歩道
といった具合にそこを一回りしてから、未知
のページへと探索に出かけることになる。一
度訪ねたホームページも、一週間も訪ねない
で行ってみると、詩の作品が増えていたりグ
ラフィックが変わっていたりして、それが楽
しいのだ。そこで、自分のホームページも、
せめて半月に一度は、変えなければと、わた
しは載せている作品を増やしてきたわけだ。
長尾高弘さんというコンピュータ関係の翻訳
をしながら詩を書いている人がいるが、彼の
ホームページ
では、『長い夢』と いう彼の詩
集全編と彼が属している清水鱗造さん 主宰の
『Booby Trap』という同人誌のバッ クナンバ
ーが全部読めるようになっている。ゆっくり
読 みたいという人は、自分のパソコンに引き
下 ろすこともできる。最近、長尾さんはその
イ ンターネット上の詩集を自動的に 作るプロ
グラムOLBCK
を書いて、それも引 き下ろせる
ようになっているので、先週わたしはそのプ
ログラムの使い方を聞いてやってみたら、あ
っとい う間に三編の詩 をホームページに載せ
られるものにできた。しかし、使い方に複雑
なとこ ろがあって、使えるまでにちょっと時
間が掛 かった。でも、これから手間を掛けず
にどん どん自分の詩や、また好きな詩人の詩
をホー ムページに載せて、多くの人に読んで
貰おう という気になっている。
ところが、そこに一つ大きな問題がある。
インターネットは英語を主体にしているので、
日本語で載せても日本人にしか読んでもらえ
ない。わたしは、自分の詩で英訳のあるもの
は全部載せることにしているが、実は問題な
のは、日本語の横書きテキストは、外国のコ
ンピュータで開くと全部「文字化け」という
判読不能の記号に化けてしまうことだ。ロン
ドンに留学している教え子から電子メールが
来て、全部文字化けしていると指摘されて、
ぎょっとして、早速縦書きの画像として読め
るようにした。もともと詩は縦書きで読まれ
るのを意識して書いたものであるから、それ
はそれでいいが、引用しようという人がデジ
タルなテキストとして簡単に引用することが
できなくなるし、電磁的な容量も大きくなる
ので、開くのに時間が掛かる。外国人には図
柄なので、「漢字と仮名の文字が見られるよ
」と注釈をつけた。
外国には詩人のホームページは多いが、日 本
では少ない。でも、大杉利治さんと淵上熊
太 郎さんが今年の初めに、オンライン電脳詩
誌『Cyber Poetry Magazine』
を創刊し て、
わたしの詩も載せてくれた。二月には淵上さ ん
から、アクセス数がベストテンに入ったと喜び
の電話がかかってきた。大阪の川崎周太さん の
『えふ・ぽえむ』
は自分のホームページ を
投稿雑誌のように解放して、送られてきた詩 や
リンクなどを満載ている。いずれにしても、 従
来からある同人誌がインターネットに 載った
という感じは免れない。自作の詩と朗 読を載せ
て、新しい表現を目指しているホー ムページ
もなくはないが、いま一つ魅力に欠 けるよ
うだ。
しかし、世界中に網の目のように張り巡らさ
れたネットだから、出会いというものもあ る。
ニューズグループを歩いていて、イギリ スの
ダグラス・クラークという人の詩 に引かれて、
彼のホームページ
を訪ねた ら、詩の他に彼の
経歴や生活が出ていて、Bathの中 で詩を書い
て来たとあったので、お風呂場で詩を 書く人か
と思って読んでいったら、温泉地の バス市に住
んでいる人だった。海に近い町で 詩を書きなな
がら、老後を猫と静かに暮らし ている様子が
伝わってきて、本によって作品 だけで出会う
のとは違った出会いを持つこと が出来たわけで
ある。マルチメディアの展開 は急速に進むだろ
うが、インターネット上の 交通は言葉を抜き
にすることは出来ないだろ う。その言葉は、
使う人のそれぞれ異質な生 活の場面を背負っ
たものとして、やり取りさ れ、ぶつかりあう
ことになる。現在、わたし がホームページに
出している詩は、若いころ に書いたものが多
い。年齢も写真も公開して ないから、初めて
わたしの詩を読む人は、わ たしを若い詩人だ
と思うだろう。それも、面 白いと思う。(ち
なみにわたしのURLは、
http://www.catnet.or.jp/srys/
で す。)




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