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うたたね


          川本真知子

手許から
読みさしの年賀状が
はらはら散っていく
時計のデジタル表示だけが秒を刻む
イランイランによく似た香りの中だ
うつぶせの頬は
とろりとろと
重なった両の袖口に流れ込んでいく

真夜中の青空では
月だけが金色の香気を地に放つ

ルビーピンクの体の内では
吸気が群れる(肺胞で)
呼気が逃げる(気道から)

グレープフルーツみたいな月へ

飛び立とうとしているのは
重力で結ばれた地表のぬくもりだ
ぬくもりの粒子
届かなくても
賀状を送りあうだけの別れた人へ
いつでも居場所を知っていたのは
私も一緒だ

グレープフルーツみたいな月へ

飛び立とうとしているのは
零れる濃紺の砂だ
机の一角で
砂時計は
誰かが反してくれるのを
眠りながら待っている
近い未来に待っている





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