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原始の目玉


          川本真知子



電気のなかった時代の
目玉があれば

真っ暗な闇にも
濃淡をみつけられる
あたりの
湿気を感じ、
風の匂いを嗅いで、
雨を知る

私は今日、一日の
出会いを予感する
出会う人のため
朝のうちに
こっくりと紅い小ぶりのりんごを
ハンカチでそっとくるんでおく

笑いかけながら手渡す
固く丸い指先が
ハンカチの結び目をほどいたなら
世間話を交わす
ふわっと
リンゴの匂い
互いの皮膚にしみるまで

電気のなかった時代の
目玉がほしい




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