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[「スピーチ・バルーン」目次 ]
マンガの作者は、井上一雄

バット君



揺れているドラムカンに
最後の水をバケツで投げこむと
麦魚のように星々が放流される

薪に火をつけてから
ぼくはその明りで
燃さずにおいた古い「養鶏の友」を読む

読みながら
麦秋の闇の底を動いて
虫のように涌いてくる家族を侍つのだ

かがみこみ肘をあげて
この待球主義の腋の下にはいつだって
鋭い刃物の汗が滴っているが……

凄かった君のイン・シュート!
そんな噂もやがて消えるさ
百羽の鶏をバタリー方式で飼う意味だって

それにぼくの竹のバットも
誌代切れの朱印のように赤茶けてきて
いまでは湯をかきまわすのに使われている

実際のところ
沸いてくるものには勝てそうもないなあ
売れ残った鶏卵は必ず土間で沸いた……

さあ 固くバットをひきつけて
湯加滅を見ておこう
妹の尻が割って入る月もぐらりと上ったからには(*1)

        webpage制作者註
          (*1)「上った のぼった」とルビあり。



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