人間の仕事。
砂車の羽根にアルマイトのコップで砂を
かける。そうすると羽根がまわりだす。
ひるがえって羽根は砂で汚れていた部分
を秒で洗い流す。洗い流された砂はふた
たびアルマイトのコップですくいあげら
れることもある。すくいあげられないこ
ともある。そしてこの場合の砂は次のよ
うに表現される。「重力によって、彼の
体は、のちに発見されたその場所へ落ち
たのである。死は、瞬間的に襲ったので
ある」。
これが人間の仕事。
人間の仕事。
水車の羽根にアルマイトのコップで水を
かける。そうすると羽根がまわりだす。
ひるがえって羽根は水で洗われていた部
分を水の跳で(*1)汚してしまう。跳
ねて落ちた水はふたたぴアルマイトのコ
ップですくいあげられることはない。そ
の可能性はまったくない。そしてこの場
合の水は次のように表現される。「ドア
近くの天井には、血の塊りと肉の小片が
貼りつき、床上には、爪のついた指の部
分が見いだされた」。
これが人間の仕事。
砂はとどまる。人生の塩を固めて。
水は逃げ去る。人生の塩を溶かして。
だがそれを見守ることは人間の仕事を越えた
仕事。
*括弧内は、サヴィンコフ『テロリスト群像』
(川崎浹訳)による。
webpage制作者註
(*1)「跳 はね」とルビあり。
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