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[「スピーチ・バルーン」目次 ]
マンガの作者は、小松崎茂


大平原児



殺すための濡れた両手で
拳銃使いはコーン・スープをすすっていた
挨っぽい部屋
窓の外には任意の方向にサンタ・フェ街道がのびている
WANTED!
塩潰けの新聞活字が
組み置かれたままで点減し
鉢植えのサボテンが
鉢植えでないサボテンと同様に灯っているのだ
寒いな
男は大画報のように陽気なシャツの襟を立てた
ジェーン・ポプキンス
左腕の肩近く蝶のごときアザあり
だがその蝶はいま
蝶だけがいま紅潮して
男のガン・ベルトで眠っていることを
男は知らない
美少女の自慰の独房に
もう銀粉がふりまかれることはないのだ
そのことを男は夢想だにしなかった
そして
それが男の不覚だった
スープの罐を投げ捨てると
男は口笛を吹いて愛馬を呼んだ
けれどもブライト・ムーン号はついに姿を現わさなかった
物語はすでに(つづく)になっていたからだ
たった十五歳のこの二挺拳銃の名手は
おかげで二年半ものあいだ
十五歳のままで正義のために
「動くな! ギャングども」と言いつづけねばならなかった
殺すための濡れたまなざしで
中学生のぼくの勉強を見くだしながら……


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