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[「スピーチ・バルーン」目次 ]
マンガの作者は、横山隆一

フクちゃん


豆腐屋はまた今日も
夕焼けに濡れた新聞紙を
顔にぺたりと貼りつけて
つらい眠りについただろうか

新聞の来ない家で
高熱の少年が
掌の路地をみつめていると
洗面器に月を浮かべた
風呂帰りのフクちゃんが
おじいさんと話をしている

ラッパの影 その細長い尾
鬼ヤンマの墜落 その細長い悲鳴
ススメ、フクちゃん! その細長いカルタ

夢の高熱が
ニガリのように若年を固めだしてから
新聞の来る家で
ぼくはフクちゃんと同じ帽子をかむるために
ラジオ講座を聞いたりした

細長い猫背にできることなんて……
よりともニホンを一一九二に!(*1)
やがて捨てられる細長いカード そのリング

「夢想は弱者の宿命である」*
大学帽子を目深にかむって
ロシヤを脱出するレーニンのように
ぼくは
ぼくの高熱から逃げようとしたが
フクちゃんの載っている新聞紙にくるまって
豆腐屋の二階で眠るのが
しかし、もっとも過激な行為であったとは

掌の
路地の
月も落ちた
と言うことさ

           *レーニン『唯物論と経験批判論』より。

           webpage制作者註
             (*1)一一九二は「いいくに」とルビあり。


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