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[「スピーチ・バルーン」目次 ]
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| マンガの作者は、山川惣治 |
少年王者
春の遠足といえば
きまって権現山だった
(頂上の岩陰で水晶が少し採れる……)
お土産にするために
こなごなの水晶をひとしきり拾い集めてから
弁当の包みをほどく
(中身はおかかを二段敷きにした醤油めしだ)(*1)
まだ弁当のぬくもりを残した
純白のハソカチーフを頭にのせて
黙りこみ飲みこむように食べていく
(すい子さんの体温を両耳で感しながら……)
食べおわると
父が軍隊で使っていた水筒に少し口をつけて
女教師からできるだけ離れた場所へと
駆けていって石を投げたりする
(東京では白面のスタルヒンが投げているだろう)
そのうちにフォーク・ダンスがはじまって
ぼくを探す声が聞こえてくるのだが
それもやがて「キジ撃ちにいったんだ」*という
誰かの推測で絶えてしまうことを知っている
(すい子さんだってキジ撃つんだぞ……と思う)
遅れてぼくは
フォーク・ダンスの輸に戻ると
声を出さないようにして「黄色いリボン」をうたう
(昔この山にいたという猿のような細い両手を振って……)
そして帰りはといえば
すい子さん!
きまってひどい夕焼けだったなあ
ポケットでジャリジャリと冷えていく水晶を握りながら
水筒の蓋を忘れてきた弁解を考えていると
「こんな山くらいで疲れたの?」
とうとうぼくをつかまえて女教師は笑うのだったが……
(すい子さん! いつだってぼくは元気じゃないか!)
*「キジを撃つ」とは「野糞をする」の隠語的表現。
webpage制作者註
(*1)「おかか」に傍点あり。
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