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轟先生(あるいは瀕死の祖父)

マンガの作者は、秋好馨


ぐいのみに灯る酒(*1)
ちりりんと秋の電燈もまたたいて
肩車の上のぼくもまた
爪先から酔いがのぼるのだった
──君はよくバソドンを突け
轟先生の白玉の(*2)
そのハゲあたまは
しかし いま
純白のケットにおおわれて
ぼくには見えない
──暫し、ただ酔ひて勢へよ(*3)
ぼくの細い脛をも勢わせた
若い祖父の
その厚い胸板の激震は
しかし いま
萬緑の敷布に吸い込まれて
ぼくには伝わらない
野と雲だ
と
ぼくは思う
人間が死ぬときは
雲が滝のはやさで落下してきて
野にかぶさり
人生の唄につながる部分を
すっぽり包み込んでしまうのだ
と
ぼくは思うように努める
だから いま
ケットの裾から
不意に突き出された足指とともに
──台所に行って酒でも飲め……
という声がしたとき
その指先で汚れているのは
確実に
幻に終ったバンドン
それを今日まで支えてきた
唄の種々でなければならないのだった(*4)

     *5行目と11行目は、大木停夫「戦友別盃の歌」による。

     webpage制作者註
      (*1)「ぐいのみ」に傍点あり。
      (*2)「白玉 しらたま」とルビあり。
      (*3)「勢へ きほへ」とルビあり。
      (*4)「種々 くさぐさ」とルビあり。



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