撮る人、つまり自分別れるという言葉に、まず、胃が固まったその人、 つまり自分。頭の中に鋭角が降り積もり、眠れなかった。 「あの人を失いたくない」その人、つまり自分。 見て触れる存在、匂いの実体、「あの人」の記憶。 あの人の身体のイメージが、寂しいこころの崖っぷちに、 何度も、現れては、その人、つまり自分を突き落とす。 刃物を持つと決めるのは、その人、つまり自分。 刃物を向けると決めるのは、その人、つまり自分。 その場に、ビデオカメラを持ち込もうと 思いついた、その人は、つまり撮ろうとする自分は、 未撮のテープが巻固めている時間と、 撮影された後の画像がほどいていく時間との、 その間の、息づくすき間に、身を震わせた。 硬直した感情を溶かすために、 自分の顔が写る刃先に舌を当ててみる、その人。 自分が味覚に置き換えられていると感じた、その人。 味覚は言葉をはねのける。 舌先の静かな体温。 「あなたとのことをビデオに撮って置きたいの」 そう言って笑った、その人、つまり自分。 |