[ HOME ]
[ 「Intrigue」の目次 ]

あかるい真昼に電車に乗って(改訂版)


                       奥野雅子


いつになくゆっくりと眼を醒ます

                窓の外の景色が見たい

     窓の隙間からのぞいた空は澄みわたって

                 その下に
 無数の建物の群れを抱く
                      真昼の車や人込の喧噪

              はねかえすように青い

  あそこにあるのは

                    あの白い雲のなかに

     渇いた熱い太陽をみていたら          久しぶりに

 きが 遠くなってしまった


《あかるいまひるにでんしゃにのって
    のいるところまでいこう》

たくさんの屋根の谷間でうずくまっている
うずくまったまま階段にいる

《へやをぬけだして
    のいるところまでいこう》

   は私のシャツをにぎりしめ
置きざりにされた
シャツには皺がひしめいて
花のように咲いている

《さいきんすこし
 わすれていたから》

裂けたシャツ
あらそって くだけて おちた
ガラスの破片
この腕のあの日まだすきとおっていた
そこから流れてでた体液

《でんしゃにのって》

たくさんの赤い体液がしたたって落ちた
そこから

《かわいたたいようの》

いつのまにか
たくさんの小さな柔らかい芽が
皮膚をやぶって

《あいまにみえるいえいえの》

外へ這いだす

《おもたいてつのどあがある
 かいだんのうえ》

花を咲かせた真っ白な
私の両腕の裂け目から

いつも私を受けつけなかった
ドアのまえでは   が私のかわりに
(両腕いっぱい)
泣いているのがみえるあの日の私とおなじに
(白い花を咲かせる)
あの日からずっとそうしてうずくまっている
(私の傷痕からはこんなに花が咲き乱れる)
会いにいこう
電車に乗って   は
髪を乱して顔もあげずにうつむいている
(白く真っ白く 乾いた道にこぼれて落ちる)
   はビクビクした子供のまま
(地平線までつづいている 純白の花)
遠のいていく記憶のなかに
   のいる場所に
両腕いっぱい咲き乱れる白い花をかかえて
(白い花のなかではまぶしい)
あの日のことを忘れるまでは何度でも
あかるい真昼に電車に乗って
私は   に会いにいこう




前のページ・奥野雅子のページ
次のページ・ふりかえらないで:奥野雅子

|HOME|
[曲腰徒歩新聞] [極点思考] [いろいろなリンク Links] [詩作品 Poems](partially English) [写真 Photos] [フィルム作品 Films](partially English) [エッセイ] [My way of thinking](English) [急性A型肝炎罹病記]

[変更歴] [経歴・作品一覧]