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スペシャル企画◇
〜 びっくりしたこと 〜
弁護士が顧客の老女の金をダマシ取り、デザイナーが自作自演の誘拐劇を演じ、厚生省の役人が温泉で談合をする(ナゼ温泉?)今日この頃。一九九六年も巷にはびっくりすることや驚きあきれる話題にこと欠かない一年でした。思い起こせばワタシやアナタのまわりにも、あんなことやこんなこと、きっといろいろ驚くことがあったはず。
見ておどろけ!聞いておどろけ!『Intrigue』の同人3人の最近びっくりしたことを、いまここに一挙公開。あなたもこの機会に、今年びっくりしたことをじっくり振かえってみては?
それでは、一九九七年もエキサイティングな一年になりますように。
☆ ☆ ☆
非常ベルの夜〜Let's get close to familiar strangers 〜
川本真知子
昔の黒電話の呼出音をさらにけたたましくしたような音です。深夜2時に非常ベルに起こされました。にもかかわらず、私は慣れた足取りで、しかも手際よく薄いカーディガンを羽織って、まとめておいた貴重品を手に外へ出ました。なぜこんなに手慣れていたかというのも、このかん高いベルの音が今年5回目の火災報知機の誤作動であるにちがいないことを私は寝覚めのぼんやりとした頭のどこかで知っていたからです。
私が今年引っ越してきたアパートは、やけに感度の高い火災報知機を備えていて、私たち住民はいつも非常ベルが誰かの煙草の煙、トースターに詰まったパン屑の焦げやシャワーの湯気などの悪気のない「ぼやもどき」に反応して鳴りだしてしまうに、いちいちつきあわされていました。非常ベルが鳴ると外へ避難、そして消防車が駆けつけて、消防士の点検が終わるまでひたすら待っていなくてはいけないのでした。それでも毎回びっくりします。だって、誤作動じゃないかもしれないのです。狼少年の嘘のように誰もが火災報知機の音に慣れてしまったけれど、もしもほんとの火事なら逃げなくては、ひだるまになってしまいます。
それにしても、出てくる出てくる人の群れ。前の広場は「コンバンワ」の嵐です。バスローブを羽織って、バスタオルをターバンのように、ゆうらりアタマに巻いている若い女の人。一枚のシーツにくるまってでてくるカップル。「グリルに夜食のフライドポテト置きっぱなしだよ」と困り顔で嘆く褐色の青年。私は寝ぼけまなこ。慌てて部屋を飛び出した隣人たちは、みな非常ベルが鳴ったときに何をしていたかが一目瞭然なのです。
夜中に一人で聞く家なりは怖い。ねぐるしくて開けた窓から聞こえる酔っぱらいの嬌声も怖い。虫の音もしんと冷え込む部屋に響けば怖い。非常ベルだって。でも、誤作動の非常ベルの夜なら、びっくりしたあとはいつも、苦笑いで、普段ほとんどつきあいのない隣人達とも、なぜか懐かしくあいさつを交すのです。
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