勾配のきつい坂川本真知子 私道の刻印 ◎と◎を踏みつけるようにして 上っていく 灰褐色の 勾配のきつい坂には 雨後の小さな水たまりが出来ている 雨後の小さな水たまりの底には みどりがかった透明の 小さなガラスの破片が沈んでいる 小さな水たまりの底で 小さなガラスの破片はそっと黒光りしている 通りに面した窓辺を見上げて 一瞬より長く思う かつて積み上げられては高くなっていった 煙草の空き箱の今はないことを 一瞬より長く思う 床にはたくさんの空き瓶が きらきらしていたことを 深い青 薬瓶のような赤茶色 みどりがかった透明 調味料のはいっていた りんごジュースの入っていた 雑然と並べられた たくさんの空き瓶が 通りの緑と陽光を透していたことを 一瞬より長く思う 左の端にあったのは魚の形をした空き瓶だ 魚の形をした空き瓶の底には まだ乾き切らない水滴がかすかに光っていた (魚の鱗ってこのくらいの大きさかもしれない) 勾配のきつい坂には 泳げない私がいる 小さなガラスの破片はそっと黒光りしている それなら私は膝を折る そばに散らばる 小石や木切れをそっと拾い集める |