『Intrigue』Vol.2

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奥野雅子 隣の席の...

奥野雅子の詩

・・・とてもシュールなアリガトウ・・・ シュールでかっこいい。学生の頃、詩の教室で奥野さんの詩を読むたび、私は いつも思った。現実の枠にとらわれない、奥野さんの物語の豊かさに感動して いた。それをシュールと呼んでいいものかは実はよくわからない。というの も、奥野さんにとって、詩にえがかれた物語は彼女が切実に現実を見て感じて たそのままの姿なのだからだ(Intrigue vol.1, 北爪満喜さんの紹介文にくわ しい。北爪さんは「ナチュラルな幻想性と切実さの宝庫」と表現した)。だか ら、「隣の席の・・・」をはじめて読んだときもシュールだなあというのが第 一印象。じっくり読んでいくうちに、少女の内面が微妙な所作の数々によって に浮き彫りになっていること、それが自分にも起こり得る感情であることに気 づいたりした。すこしゾクッとした。 なかでもここにでてくる「手鏡の角度をいろいろにかえる」というのが微妙で いい。手鏡にうつるものは「私」の切実な目に見つめられ、関心が薄れれば 「私」の思考の主役からおろされていく。「隣の席の・・・」 は視線によっ て語られていく。ありがとう、ごめんなさいなんていいながら、対話している のは人ではなく視線そのものなのではないかしら、と思えてくる。だとしたら とてもおしゃべりな視線だ。そしてかわいい。少女の内面の甘さと攻撃性が視 線をずらすごと不規則にあらわれては消えていく。 いつも一人でにこにこして、時々訳のわからないこといってるような摩訶不思 議な人がみんなから好かれたりしていたようなきがする。隙のある人。って魅 力的。シュールな人ってなぜかお知り合いになりたくなる。これは私の個人的 見解かもしれないけれど、奥野さんの詩はそんな引力のある詩だと思う。 (川本真知子)
隣の席の・・・・・・(初稿)          奥野雅子

ある日きゅうに無口になってしまった
となりのせきの女の子のことを思い出した
午前ちゅうの陽がさす
あの明るい教室でわたしが
手鏡の角度をいろいろにかえる
すると
無口なとなりの子の
ドコカ細長いかおが映り
そして
そのうしろの窓のそとの
大きな銀杏のみどりがきららと映った
そして
角度をかえてわたしは
銀杏のみどりのほうばかりに気を取られていた
ごめんなさい

緑色がすきなの
と、となりのせきの子が言った
なんとかパーティで知り合った
いちにちだけの友達が
ぜんしん
緑色のドレスを着ていた
ごめんなさいわたし緑色がすきだから
そういう言い方ってチョット
嫌味なのよね
あららごめんなさい

そんなにいつも謝ってばかりいるから
かなしい気分になんのよ
と
会社のトイレで泣いてた女の子をなぐさめる
アリガトウあなた好いひとね
でもあなたあの人のお友達なのに
うわべだけはね、とわたしが付け足す
お友達はタイセツにするべきよ、と、彼女は言う
だってあんた泣いてんだもの、と、わたし。
アリガトウあなた好いひとね
でもやっぱり
お友達はタイセツにすべきだわ
と言って、顔を上げた彼女の顔は
チョットばかり細長い
そう、となりのせきにすわってた/無口な/かおのながい女の子。
ごめんなさい、気づかなかった、と、わたし。
あなたはいつも、わたしのうしろのほうばかり
あの男の子ばかり
みてたから
おぼえてなくても無理ないわ
でもね、
アリガトウ、と、彼女。




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