『Intrigue』Vol.3

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GUESTS"POEMS" 高雄健一郎

高雄健一郎

 イントリーグ読者の皆様、はじめまして。高雄健一郎です。詩誌「トビヲ」同人、三十二歳、男性、一応独身。生まれて初めてのゲスト。私は実を言うと文章を書くのが、けっこうつらい。なのにどうして詩を書いているのかというと、なんとなく情けないのだが、書かなければ、生きてゆくことができない、からなのだと思う。その他に、私が詩を書いている理由は、たぶん、ないことだろう。もちろん、詩を書くことで、違う人間になってゆける楽しさは、充分にあるが、私は一体何度、「純粋読者」になってしまえたら、と、願ったことか。しかし、私は書く。書いてしまう。感動を自分自身の中に叩き込んで、発話者を通さずに、満足することができるのならば、きっと書かずに生きてゆくこともできるだろう。しかし、私は、今のところ、それができない。私は、詩を書くことが、実は、きらい、かも知れない。でも同時に、すき、でもある。だからといって、すきでも、きらいでも、ない、ということではない。このふたつの想いは、けっして交わることなく、平行線のまま、伸びつづけてしまい、清算はより不可能に向かって遠ざかってしまうのだ。だから、というのではないが、詩はやはり、詩を書く人のために存在するもので、「純粋読者」のためにあるのではない、と、私は、素直に納得してしまう。閉じられようが、自己満足だろうが、他者が書けていなかろうが、いっこうにかまわないでしょう?と、開き直る訳ではないけれど、素直に、まじめに、けれど楽しく書いてゆければ、それでいいのではないだろうか。愚かな、アマチュアの私です。(高雄健一郎)

高雄健一郎詩集「カンタリスのゆめ」より二篇

光らないもの

               	高雄健一郎


先の読めるドラマは嫌いだ
眼の前をめたくそにして
たくさんのビーズ玉
の中の火成岩になりたい
そのかけら
が 輝くことはなく
泣くこともない



空とガキ

               	高雄健一郎

カメラを構えりゃ
またあのカニポーズ
チビの媚び売りどもが
俺のファインダーのど真ん中だ

(ちっ このガキどもが!)

カメラを下ろすと
空が笑った

俺は気をとり直して
もう一度
ファインダーに目玉を突っ込む

俺のなかのガキが
そいつらに向かって
高らかにVサイン
手を差し伸べてゆき
笑う空が
シャッターを切る

(書き下ろし)

葬送曲

               	高雄健一郎

椚の枝先を這う
ヘッドランプの光
宝石箱の蓋を開く喜び
冷えてゆく下弦の月
それが私の夜の祝典!

静かな石盤を
闇が正しく削る
雑木林の秩序に
今 生き物として
私は参加している

楢の幹の内部の
生存に孤独を伴わせない
ひとつずつの軋みと
咲いている
三種類の蘭の花は
闇の底にも
愛嬌を振り撒くから
私の嗅覚は
蟲たちの欲望を
描いてゆく

笹を漕いでゆくと
冷蔵庫とオートバイとが
放棄されていた
それは夜の底にある
たったひとつの恐怖だ

めのまえに
蜘蛛が緩やかに落ちた
紡がれた糸のほそさが
ヘッドランプの光を浴びて
シンメトリーを引く

眞竹を見てスラリと屶を抜き
手首をスナップ
スコンと手応えがあって
素敵なスティックが
私のものにー泥棒ー

少年の頃こんな
夜の散策を
共に歩いてくれる
少女を私は求めた
実行したことも
あった 少しも
楽しくはなかった

道に辿りついて
軽トラックのつけた
ふたつの轍の跡を避けて
草に座る
東の方角に
つらい明るさが
滲みはじめる

私は 雑木林との
こんな夜遊びばかりを
繰り返して育った

それは不幸か
運が良かったのか
今でもわからないけれど
凍るような寂しさが
金属質の重量になって
私に沈殿していった

かつて一度だけ私は
雑木林を殺したことがある
トラクター バックフォー
茶畑を作った開墾 
罪の意識のなかった仕事
仕事という罪

今日の昼を過ぎれば
同じように
この雑木林は
忌まわを迎えてしまう

チェーンソウ
パワーショベル
ブルドザー

今夜 確かに
私はあなたに
選ばれたけれど
秋の茜を
あなたは
二度と待つことはない


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