『Intrigue』Vol.3

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海水のとどく部屋

海水のとどく部屋

               奥野雅子


どこかへ行きたい
という気持ちがあるから
毎晩ユメをみてしまう
長くつらなる列車にのって
どこか遠くの海へ行くユメだ
私は海へむかう列車の座席から
車窓をとおりすぎる電柱の数をかぞえている

        *

カラダがうごかないから
会社からもらった休み
微熱があってどこへも行けない
だけど
朝起きて飲む水がおいしい
パジャマのままで起きだして蛇口をひねって
今朝の水道の水は
海水の味がした

お湯をわかそうと
コンロをひねると
ポン、と炎のかたちに花が咲く
ぽっかりと白い
浜辺に咲くような花
はまゆう とか いっただろうか
うちあげ花火にも にて
白くてまあるい
砂浜で潮風にふかれたら きっと きれいだろうな

コーヒーを入れよう
フィルターからぽたぽたと
こぼれ落ちるコーヒーは
部屋にみちる
海のにおい
カーテンが青く波うつ
海草をおよがせた 遠い海
あの海がもう私の部屋の
窓のすぐちかくまで
きている
海へはやっぱり
だれか親しい人と行きたい

コーヒーの湯気のむこうに
いろんな顔を思いうかべていると
なつかしい波の音がきこえてくる
一ヵ月ぐらいずっとひとりぼっちだった
ひとりの部屋にいても
じっさいには会えなくても
波の音だけは
きこえてくるのだ

さざ波がうちよせて
はまゆうの足もとに細かく
泡をたてると
銀色のステンレスが
浅い水の底でしずかにひかりはじめる

待ちのぞんでいたのは
みちてくる海水
近寄って
ふれればこの手のひらに冷たい



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