『Intrigue』Vol.3

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かさぶた できるまで

かさぶた できるまで

               恩地 妃呂子


好きな人に いいとこ見せよーと
はりきって
ケガした

いつも 左足

クラスマッチは すごい応援で
その中に あの人もいた(はず)

  ブルマやろ?
  ハダシやろ?
  あたりまえやん

  ホームスチールして
  すべり込んだら
  ケガするわー

でも そんときは痛くないんよ

―あとさきのこと考えて行動せんな―
って何度いわれても

やってしまう
いつも 左足

本当は
かっこいいとか
誰かに見せたいとか
さえ 考えてなかったりして

もう頭の中は
白いホームベースまで つっぱしる
だけ

―あとさきのことも考えんな―

わりと深かった傷から
しる が出てきて
やっと
情けない自分に気づく

風呂しみるやろなあ
トイレで足まげられんなあ
ああ
左足に心臓あるみたいや

「とりあえず 消毒しとこうね」
傷を洗いもせんで
ぼう然と立っとった私に
保健委員が 声かけた
肩かしてくれて
足洗うてくれて
オキシドールの
すごい泡

「すごかったね」
え、ケガのこと?
あ、もしかして
試合見てくれとったん?

情けなくなってた自分が
ちょっと救われる気がした

グラウンドではリレーが
盛り上がっとるみたいやけど
木陰で2人
手当てしてくれる彼は笑顔(でも保健委員)

いかん
顔赤うなってきた
左足と左胸の心臓がドキドキしてきた

デカイかさぶたが できて
かゆうなってきたら 治るかな




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