『Intrigue』Vol.3

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毎晩電話のベルを聞く頃

毎晩電話のベルを聞く頃

               川本真知子


毎晩電話のベルを聞く頃
私は長風呂からあがったばかりの
上気した頬で冷蔵庫の中をのぞく


今晩の声は
かすれ飛んでいる

毎晩残業で
「いそがしいんだけど」
夜ご飯はいつも仕出し弁当という男

きっと走ったあとなのだ
リノリウムの端がぺろりとめくれた細い廊下を
体をゆっさゆっさ大きくゆすって

「何分も時間がないんだけど」
予防線をはっておきながら
私にどんな一日だったかと聞いてくる

私の作り話の紙芝居
うかがう男は
いつもからくり一つ見抜けぬふりをする

今晩は会社の人と
夜桜のトンネルをくぐったの
愛宕神社の境内

ぬかるんだ土の道で
飼われている
老犬の瞳はしれしれと濡れてたわ




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