嫌われてるね。呼び出された。 もう既に、彼は来ていた。 古いつき合い、端的に言って、黒い人。 皮膚の色ではなくて、 彼という存在が実体を持たない闇の塊。 テーブルを挟んで、 正面をずらして、斜め前に座る。 「嫌われてるね。」 腰が収まる間もなく男が言った。 応えようがない。 バーの隅の丸テーブル。 いつもは五つの椅子が、今は三つ。 二脚は、向こうのカウンターの余りの空間で、 若い女の二つの尻を支えている。 女の斜めの顔が、隣に向かい何か真剣。言葉は聞こえない。 黒い人は何も言わない。事態は事態だから。 わたしも何も言わない。見抜かれているから。 沈黙ということではない。 言いようもないから、応えようもない。 向き合って、視線を外し、巡らし、戻す。 「嫌われているね」の一言で終わった。 彼、わたしから見て黒い人、闇のかたまり。 わたし、彼から見て黒い人、闇のかたまり。 丸テーブルを挟んで、黒々と対面している。 狭いバーの中、丸テーブルは既にぽっかりと空いた深い井戸。 彼がコップを置いた。 その手元から引き取った言葉を飲んだ。 また、わたしの視線から、彼は言葉を手放した。 光の射さないこの心底を澄ます。わたしらは、 互いに向き合って透明な闇の塊りまま、一時を過ごす。 |