(子供のときにね いちどだけ 父がお伽噺をしてくれたことがあるのよ) 冬の夜 ぼくの脳細胞の暗がりで おばさんが話しはじめた 1 (降りしきる雪の中で 旅人は…… というのだけれど それだけしか覚えていないの あんまり幼すぎたのね わたしが) 降りしきる雪の中で 旅人は どうしたのだろう 低い声で ぽつりぽつり 娘に語りかける男の暗い肩を思いながら ぼくはかんがえる そしておばさんにいう ぼくだったら 雪の中に そのまま倒れていたいと思うよ もうなにもかも いいんだもの (そうね わたしもそれでいいと思うわ 父が話したのは 別のお噺でしょうけれど) ぼくの脳細胞の暗がりで おばさんが領く気配がする |