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  結婚歌


はじめに茶柱
があった
はじめに母親が立つ
まず よき日と定め
口笛なんか吹く
春の公園を おそろしく汗ばんで
あるいたか
コーヒーはブラックで
のんだか
日曜日の映画館には行かなかった
サウンド・トラックなんかに
耐えられるかってんだ
青物市場を何べんも
通りぬけた
通りぬけながら
来週の さ来週の
時と場所とケチな休息を決めた
ブラジャーは洗いたての
まっしろだったか
あたたかだったか
東の 西の
山のてっぺんの 地下の 指の股の 草の繁みの 軒下の
神さま集まれ!
あッというまの昨日今日
ゆびきり ばんざい
薔薇はバラいろ
鯖はサバ
決定はすべて あさってに
あした 何しよう?
なまめかしい結論は
茶碗のように伏せられる
おぞましい出立
血なまぐさいけものたちの群れがか
あらゆる谷を
わたるだろう 列を乱して
風が窓を そっと 激しく
さらに激しく 無茶に
ゆすぶるくらいがいい
武器を捨て 集結せよ!
ふたりは別々に鏡に向かい
みぞおちに うすい汗を
にじませるくらいがいい
あるいた あるいた
ながい絨緞の廊下を しやなしやなあるいた
ああ
千代に八千代に 干代に八千代に
笑ったらいいのか
教えてくれ
泣いたらいいのか
何を どうしょう
ふたりは 右と左に
あぶなげにつっ立つ
いやだよ
主賓になるのは!
気をつけろ
背負いきれないメッセージが ひそかに
運びこまれている
支えきれない笑いと拍手と煙草の暴力がふりかかる
風は海から山から
誓詞だ 記念写真だ 御両家だ
それから恨みっこなし
おかしらつきの
ぐでんぐでんの酒盛りだ咳ばらいにつづく咳ばらい
坂道を左へ左へのぼりきった左側
花など咲くもんか
ビールをぬいて
くだものを割れ
それからスピーチわんさか
紅白の
おかしらつきのスピーチだ
口でトチっても 腹まで
トチるなよ
「お茶いただけませんか?
 せんべいも」
礼長がすわって 先生が立つ
顔を立てるか 爪を立てるか
祝え
胸と胸をあわせるふたりを
祝え
椅子をはねとばし
鯛もはねあがらんばかりに
この浦 船に
帆をあげ 旗をおっ立てて
いやだ 苦手だ
主賓になるのは!
寝床は
あったかくなるだろう……
多すぎても少なすぎてもきまりのわるい祝電
おい ほんとにあんたたち
声とネクタイをそんなにひきしぼって
シンセイカツノスタートヲイワイ
サチオオカレと
祈ってくれるのかい? みんなして
わあ!
リンゴを割れ
テーブルがゆっくり傾き
野の草が騒ぎだす
バッタとべ! コオロギも
「野卑なレコードをかけてくれませんか?
そしてコップにたっぷり水を」
これがはじまりだ
あなたは胸を突きだし
いくつもの角をまがって
走って帰るだろう
ネギとバターをかかえ 息せききって……
ガスコンロの上で イカと
大根が煮えはじめる
夏には寝苦しい午前二時
冬には雪ぱらぱら
熟いお茶と上等のお葉子だ
家賃だ台所付だ泣きごとだお隣りだ
週に一度の愚痴だチャーハンだ
それに洗いたてのシーツを乱すいくらかのデタラメ
サチオオカレのご亭主さまとかみさんさまだ
倒れなん ハッ
汗と薄暗闇の野菜畑



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