さあ 一枚のレコードで飲んだウイスキーが まだ唇をぬらしているあいだに 駆けはじめよう 街路は暗く曲がりくねってのびている 重い夜だ 静けさだ 肉屋もたばこ屋も眠っている シーツは汗で冷たくよじれている 痩せたせた若者たちが 激しくからみあっている部屋部屋よ 揺れろ 割れろ カーテンをめらめら燃すのだ きたない動物たちは地中で醒めたまま 腹を食いちぎりあう 歯 腸 よだれ どれもきたない きたない人間どもはタオルをまるめ 銭湯へとびこんでいく 厚い闇の底をめぐりめぐる石鹸の泡 毛の束 底なしの夜をゆすれ あの高い煙突が偽装するひときれの 小市民どものふうわりとした日常 甘納豆は明日も売れるとも 平和のための言葉を撤くな 平和のための笑顔を売るな 買うな 運ちゃん あそこがネリカンだよ あそこが東京武蔵野病院精神科病棟 ひっそり立ちふさがっているのは壁だけじゃない ここはすッとんでいく環状七号線 悪酔いしているのはおれか? 環七か? ながれつづける車 煙草なしで駆けよう ヘラヘラヘラヘラ笑ってばかりいるやつ! ぶッ倒れたら 泥で肩を武装すればいい 泣かずに寒さを徹底的に測ろう 陽気なやつや幸せなやつに おれはたくさん出会った 陽気な街や幸せな街を おれはたくさん歩いた よく笑いよく働きよくふざけよく踊りよくしやべりよく眠りよく遊びよく忍び…… そうしてやつらはデブり 街々はさらにデブる 〈バァーイ〉 誰かが弱々しい声をのこして角を曲がったな しかし 追いついて彼ののどを責めるな あおずんだ顎やネクタイやホケットのマッチは 明日につながる貴重な符牒だ うすっぺらなドア一枚押しあけるために おれはひたすら駆ける 底なしの夜をゆすって 巨大できたない夜に馬乗りになって おれは舌を垂らし のどが焼き切れるまで歌いつづけよう |