[ HOME ]
[ 「にぎやかな街へ」の目次 ]

  夢をとばそう


豚だな、夢がないのは豚だよ。
人間には夢がなきゃいかん……    安部公房「透視図法」

  
走ればすぐ尽きちやう江古田商店街を
ペプシでのどを冷やして歩きながら いま
煙草を一本
からだの奥ふかく吸いこんで
この一個の朝をじわじわとひろげたい
温暖な街と人たち
目をほそめ
しなやかに踊っているやつらがいる
決して狂わないあいつら
笑いはとめどなくまきおこり
ひるがえる陽だけがふてぶてしい
目と目で言葉を取り引きすることの何たる軽さ
肩抱きあってうたい明かすことの何と水っぽいこの島の姿
手ざわりのいい歴史の抒情だけがちろちろ燃され
とても暖かすぎる岸壁
飢餓の運河がパタパタと
あまい夢の明けがたに飛ばすみみっちい小鳥
火を啼く鳥が
おれたちの髪を嘲笑って飛び騒ぐのはいつ?
ストローをくわえ
公園で声高く笑うやつらは
幸せののどに呑みこまれてしまえ
晴れあがって
おれたちの背すじを撫でおろす空の広さを
憎もう
鉄塔や競技場や遊園地や劇場やグリーンベルトに
ワン・カップの夢がつりあうなら
むしろ叩き殺されるももいろの豚でありたい
いつも時代をなめらかに熔接して
そっとゼニをかぞえはじめるやつらがいて
毒々しい善意のチラシを投げこんでいく
河口にひしめき さんざめく
おびただしいコンクリートと鋼鉄の楼閣
冷えびえとした影のアメーバは 日々
内陸ののど深く立ちはだかる
その密議を焼き 窓々を砕くことはせつない
楼閣を掻きむしり
そこに火を啼く鳥を放とう
それがおれたちの見はてぬ夢のきれはしならば
食えないやつは死ねよ
会えないやつは捨てな
指折って不幸せな日々を想いおこしてみろ
酔ったいきおいで夢なんかもつから
いつもまちがえてしまうのだ
清潔な灰皿の内側で
煙草をひねりつぶしているいやらしい二本の指に
ずっと語りかけていこう
カレンダアのように夢をむこうへめくれ



前のページ・夜駆ける
次のページ・街・うつくしい愛

|HOME|
[詩の電子図書室]
[曲腰徒歩新聞] [極点思考] [いろいろなリンク Links] [詩作品 Poems](partially English) [写真 Photos] [フィルム作品 Films](partially English) [エッセイ] [My way of thinking](English) [急性A型肝炎罹病記]

[変更歴] [経歴・作品一覧]