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  陽気な季節


    井の頭公園の三月の月曜日
花もない暗すぎる仕事机で
一週間区切りの労働に五掛で身を売るあんたにも
タイム・カードなしの休息が絶対必要だが……

ひかるハンドバッグをふりまわす
ピンクのスーツを着た少女ともつれながら
ながい石段を 公園へ落ちこんで行ったあいつ

弱い陽ざしのどのベンチ どの石の上で ぬくぬくと
タバコに火をつけようと
勝手だが……

ひょうたん型の濁った池は
誰のこころの斜面も映しやしない
われらの都市の歴史は頭上はるか通過し去った

新しい都市の設計図を そんなに引くな
われらの汗や歓声に美しい意味のトリミングはいらない
労働は安く換金されつづける

汗くさい季節も
凍える季節もない
池の鯉や鮒にうきうきとエサをちぎって与えるな

背の高い男と髪の美しい女が
ハンカチの上に腰をおろし
指と笑いをからませあうウソっぱち

「世界は雨季だ
糞! 糞! 糞!」と書いた男の
小さいペンダコに祝福を

ズボンの尻をはらい
スカートをパタパタはらって
午後三時の位置と話題をいっせいにずらそう

雲は移動し 湿った樹間に
むごたらしい季節はない 風が
コカコーラの泡を空いちめんにひろげる日曜日の散歩

乳母車を押して
時間をすりへらす若い奥さん
犬さえあるくコンクリートの道

クライバーンは突然立ちあがる
コップに冷たい水を満たし 声もあげず
寝そべった夜半へ

ショパンは小さく叫んでくたばった
モンクは神のヒゲになって前のめりにくたばるだろう
われらにしなやかな指と冷たい春を

毎日の 朝から夜までの
かたい椅子からころげ落ちて
どこに安らごう?

「今日のふしあわせには笑って耐えようではないか
友よ 明日泣け」
もしも明日が希望の午後十時なら!

かわいた芝生の上で やさしい輪になって
踊るながい脚や歌に
どれほどの軽い青春のステップと疲れがある?

陽気に
陽気に!
花も夢もほころびないうちに

一袋のポプコーンや哺乳瓶を
腕に吊るし 右へ左へ流れる
雲の切れ間のみじかい休暇

あしたはざんぶりこ
瞼も腸も燃えあがる春に
啼きに啼く鴨

暗い夜明けの窓辺で
陽気にうたいながら 茶碗を
いくつもいくつも割ろう

顔をあげて事実を見つめよ
美しく塗りかえられたベンチが砕け
人も思想もあさってたちまち横倒しになる

大きな組織や小さな血縁に
あざやかにくりかえし裏切られて また
われらはきりもない春に抱きつくのか……

会議は四時間を経過したが
言葉のピンでどれはどの希望を固定できたか?
レモンティーは一つ一つさめる

幼児よ そんなにブランコをゆすって
「ママ!」「ママ!」と歓声をあげるな
真冬の池畔で死んでいったやつもいるのだ

やがて真新しい何艘ものボートが桟橋にならび
恋人たちのむれが陽気にゆれあって
池の中央へまっすぐ進んで行くだろう

泥酔した夜明け
ウサギのように犯された女友達よ
ひとりだけの部屋に立ったまま泣きつづけよ

綿菓子は臆病な口を満たすには甘くて軽すぎる
腕時計はささやかな休暇を喰い尽くす
池畔から日は暮れはじめ われらは野ネズミとともにたちまち老いる

無茶を!
暴力に占領されるすばやい朝を!
嵐にいろどられる陽気な季節を!

美麗な青春の論理で飾りたてられ
売られ のさばる夏の抒情を組み伏せ
いたるところ血の雨を降らすのだ

池畔に立ち 桜の樹肌に片腕を休める少女の
この日最後のポーズを
暗すぎる絞りによって奪おう

やあ 貧弱なカメラマンよ
この春先の記念写真を おれは
底ぬけに明るく笑って きみの前に立ちふさがってあげよう

注文つけるな
ポーズはない!



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