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詩集『石の風』より

自転車でひとまわりして来よう                       




居間の
テーブルの上に
ピーナッツ、60個
この数がわたしの年齢
一個ずつつまんで食べて、7分。
水も飲んだし
さあ、自転車で
ひとまわりして来よう。

代々木上原の駅のガード下の
坂道を
長い髪をなびかせて下って行った
赤い自転車の若いお母さん
前の篭に幼子を入れてる。

学校帰りの女子中学生は
「女子中学生」
というこの漢字が
ぴったりに感じの
制服の女の子の目つきが厳しい。

昨日は
人間の輪切りの標本を
科学博物館へ
見に行った、黒川君に教えられて。
輪切りが横たわる
ウインドウの前では、人々が
びっしり、動かないで対面していた
本物なんだよね、これ、プラスチックで固められてるけど
その思いは共通していた。

商店街から路地に曲がろうとしたところで
昔、三千円貸した男が
二十年ぶりで歩いてくる
女を連れているのが不愉快だ。
白髪のわたしに気づいたか気づかないか
通り過ぎて
何でわたしは年増の女の陰部を想像したりしたんだ。
給料の3分の1を取られた昔の話。

家々は
戸を閉ざしているのが当たり前さ。
人が出かかってまた引っ込んだ、そんな眺めに
人生を語ったら
もうおしまい。自転車のペダルが
音を軋ませるのが、気持ちいい。
今度、録音して
ハイパー・カード・スタックに入れて置こう。
この音もわたしの姿も0と1の符号に換えて
またその電子の流れに
身をゆだねる清々しい気持ち。

今朝、麻理が
ベッドで
わたしの手を握るので目を覚ました。
不安に突かれて、夢の外へ出されて
傍らのわたしの手につかまったのだった。
わたしは、手すりのようなものなんだ。
夜明けには、麻理の手すりになれる
こいつはいいぞ。
眠る前の思いに
光が射してくる。



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