2002年4月1日から30日まで


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2002年4月23日

 新入生に、いきなり16mmカメラBolexの実習。


雨の中のBolexカメラの実習
 雨の中のBolexカメラの実習


 Bolexカメラ

 21日に日曜日は雨だった。その雨の中、この4月に多摩美・映像演劇学科に入学した新入生は、いきなりの16mmムービーカメラBolexを使った実習を行ったのでした。カメラについて、フィルムについて、更に撮影ということについても、全くの知識のない新入生に撮影をさせるということはかなりの冒険だが、映像表現するにしても、身体表現するにしても、現場を踏むということが大切なので、その体験の第一歩というわけ。当日は13班に分かれて、それぞれの班に2、3人の上級生がついて、露出を測ったり、カメラの扱いを指導したりの撮影で、10時頃から4時頃までに各班6、7人が「君は上野毛で何を見つけたか」というテーマで一人当たり20秒の撮影をした。カメラ一台につき100feet(30.5メートル)の一巻のフィルムを回すということ。

 雨だったのでスタジオにも照明を入れて、スタジオ撮影も出来るようにしたが、多くの班は、雨の中、傘をさしての撮影をしていましたね。2、3の班について歩いたが、撮るものはいろいろ、物にこだわったり、人に演技させたりで、中には持ち分の20でショートストーリーを組み立てるものいた。ということで、一人当たり30分ぐらいで20秒を回すことにしていたのに、1時間あまりも掛ける者もいて、暗くなるまで撮影、という班もあった。この撮影したフィルムは24日に、昨年先輩が撮ったフィルムと一緒に上映して、新入生歓迎のパーティをする。これが多摩美・映像演劇学科の新学期の決まり行事。

 先週の水曜日には、最初の授業があって、わたしは続けて二つの授業で講義をしたら、のどを痛めてしまい、週末は声ががらがらになり、咳がひどかった。最初の授業で学生と向き合うのは、新入生はもとより、上級生の顔見知りを相手にしても緊張する。学生の方にある種の期待感があって、それを感じてしまい、思わず力が入って、声を張り上げてしまう。だいたい一月から大声を出す講義をしてないから、のどの方も慣れてなくて痛めるということになる。これは毎年のことだ。これで、熱を出して寝るなんてこともあった。今年は幸いもうのどの痛みも取れて、寝込むということもなく済みそうだ。今週の末から、いよいよ『山北作業所』が上映される「イメージフォーラム・フェスティバル2002」が始まる。




2002年4月15日

 新作映像作品「山北作業所」がようやく完成。


自宅のDV編集コーナー
 自宅のDV編集コーナー

 新作の映像作品「山北作業所」の完成にようやくこぎ着けた。1月の末には映像は殆ど出来ていたのだが、ナレーションを考え、それを入れて、音楽を付けるのに何と2ヶ月余り掛かってしまった。作品の内容は、彫刻家の海老塚耕一さんの作業所を主に、ガラス細工の工房での作業、それに大阪の明治生命館に作品を設置などシーンを入れて、現代彫刻のあり方を語ろうというものになった。考えを纏めるというより、海老塚さんの談話の流れに沿って、話の筋をどう作っていくというところで作業が進まなかった。そして最後に、70分となった作品をテープに出力するところで、若干のトラブルに見舞われるところとなって、手間取ってしまった。

 物そのものと観念のせめぎ合いみたいなところに位置する現代彫刻を語るということは結構難しかった。今回取り上げた海老塚さんの作品は、ビルの壁面に取付けるというものだった。わたしとしては、ビルを貫くような形で設置される作品が、木材を使った彫刻「浮遊する水-風との対話T/U」」と、ガラスを使った「詩人の風景より-風T〜]T」という二種類の素材の作品からなっているので、全体を想像すると、重い木材の塊が上の行くに従って気化していくような印象を与えるから、その制作と設置の過程を撮影した映像と「考え」を述べる言葉をうまく関係づけることで、単なる説明に終らずに、現場の進行に即して彫刻を論じることが出来る思ったわけ。言葉と映像が乖離しかねないという無謀な試みですね。論点は、彫刻は一人の作家の物との出会いで始まるが、設置までには多くの人が加わり、物質である物が気化して、物ではないものになる、というようなところまで考えたのですが、上手く理解してもらえるかどうか、心許ないですね。

 編集にはWindows2000Pro上の「Premiere6.0」を使い、ビデオ取り込みと出力には「DVRaptor」の「RapVideo」を使っている。ハードディスクはRAID方式で接続して2台のHDDを1台にしている。昨年は出力時に画像が乱れること無かったが、今年は3回起こった。それも、70分中に一回二回しか発生しないが、見づらいからやり直しということになる。画像の乱れはムービーファイルのフラグメンテイションが原因と思われる。最初には真ん中頃で発生したので、ハードディスクにデフラグを掛けてやり直したら、うまく行った。2回目は最後の音楽が飛んだ。3回目はカットの変わり目。そこで、「Premiere」が作るテンポラリーファイルの読み出しが問題なのかと、Cドライブもデフラグを掛けて、やり直し。70分だと、やり直す度に70分まるまる掛かるから、手間取ることになる。イメージフォーラムに提出するテープ2本と自分の分を作ったから、その分だけでも時間が掛かったというわけです。




2002年4月10日

 4月も瞬く間に10日となり、牡丹の花が咲く。


牡丹の花
 牡丹の花

 4日は榎本了壱さんのパーティ、5日は思潮社のパーティ、6日は午前中、イメージフォーラム付属映像研究所のBクラスの開講式、午後、多摩美造形表現学部の教授会と映像演劇学科の懇親会、8日は入学式と新入生ガイダンス、9日は2,3,4年生のガイダンス、その間を縫って新作映像作品『山北作業所』のナレーションを考え、今年のイメージフォーラム・フェスティバル2002では、このわたしの作品が1本で一つのプログラムで上映されるので、宣伝をしなければと、ダイレクトメールを作ることにして、その印刷も発注したしたりした。というわけで、まさに「瞬く間の十日間」だった。

 榎本了壱さんの『「おくのほそ道」裏譚(リターン)』出版記念パーティは、その前の週に榎本さんと偶然にあったので70年代のつき合いのよしみで招待されたのだった。この『「おくのほそ道」裏譚(リターン)』という本は、芭蕉の「奥の細道」の俳句50句をアナグラムで解体してエロティックな俳句に読み替えた句と、それにだまし絵の技法を使って描かれたアクロバッティックなエロ画が挿絵で入っている本だ。言葉遊びの名手・榎本了壱さんでなければ作れない本。わたしは、かつて「ビックリハウス」でパルコ文化を支えていた人が、現在どういう人たちと交流しているのかという興味もあって出かけていった。パルコ・パートTの地下のギャラリーで挿絵の原画展を見てから、一階のパーティ会場に行った。受付が始まると、続々と人々が集まり、パーティが始まるという時点で、立食パーティとは言え、中年の男女が殆ど満員電車状態になったのにはビックリした。顔見知りに人は二人か三人だった。殆どがデザイン関係か雑誌の編集関係の人たちらしかった。紹介された女性編集者が、数年前のあの地震があった夏、北海道大学で集中講義した時、わたしの講義を聞いていた話しかけてくれたので、何とか時間を保つことが出来た。話しかけてくれたもう一人の男性は、榎本さんの若いときからの友人で、60年代に現代詩を読み始め、今でも「プアプア詩」を読み返しますよ、と言ってくれた。懐かしの「プアプア詩」ですね。

 思潮社のパーティは、「梓会出版文化賞受賞と創立46周年を祝う会」というのだった。こちらも盛会だったが、20代と見える人の姿は殆ど無く、お年寄りが多かったですね。そのお年寄りの先生たちの祝辞は、思潮社の創立当時の机一つが置かれていた階段の急な森昭社ビルに触れるところが必ずあった。そして、思潮社も青土社もそれぞれ息子さんに引き継がれていると言うことだった。わたしが「現代詩手帖」によく原稿を書いたのは70年代前後のこと、もう市ヶ谷に自社ビルがあった。でも、その頃、詩の本の出版社が世襲になるなんて考えたこともなかった。国会議員も芸能人も、2代目3代目が活躍する時代だから、今はまた、世襲が当たり前になった時代なのだ。わたしは、この10年ほど詩人が集まる会合には顔を出さなかったので、高見順賞の授与式でお会いした人以外の人は全く久し振りだった。それぞれ、その風貌にお年を召したと思い、自分のことをも思った。平田俊子さんと田中庸介くんとちょっぴり詩の話をした。細胞の中に蛋白を運ぶモーターがあるという田中くんの専門の生物分子学の話が面白かった。

『山北作業所』の一場面
 『山北作業所』の一場面

 『山北作業所』「イメージフォーラム・フェスティバル2002」でワンプログラムで上映されるんですよ。ということは、この「Gプログラム」を見に来る人は、わたしの新作だけを見に来るというわけ。客が入らなかったら、わたしの責任ということになる。客の入らないプログラムがあってもいいけど、それじゃみっともないし、恥ずかしい。というので、急遽、ダイレクトメールを作って配ることにした。写真をレイアウトした原稿をイラストレイターで作り、書肆山田から印刷屋さんに頼んだら、圧縮してフロッピーにコピーしたファイルが壊れていて開けないという電話。そこで、CD-ROMに焼いて、江戸川橋の印刷屋さんに直接持っていった。江戸川橋の辺りって、四十年ぶりぐらいだろうか。近くに地蔵通り商店街というのがあって、鯛焼き屋の店先でテレビ局が取材していた。この商店街を散歩して帰ったが、気持ちよかった。それはともかく、是非とも『山北作業所』を見に来てほしいですね。

 その『山北作業所』の完成はちょっと遅れています。昨年『極私的にEBIZUKA』で、彫刻家の海老塚耕一さんの作品を取り上げたので、今年は海老塚さんの制作風景を撮って、現代彫刻について考えてみようというわけ。山北作業所というのは海老塚さんの仕事場の名称。編集はもう一月には出来ていたのですが、ナレーションがなかなか出来なかった。作品の流れは、海老塚さんの作業場での制作から作品の設置までを描き、海老塚さんの談話とわたしのナレーションで、そこに合わせて現代彫刻についての考えを語り出そうという、わたしとしてはいくらか野心的な試み、ということになる。つまり、わたしはナレーションで現代彫刻について考えを語らなければならない。この考えがなかなか纏まらなかったんですね。それもどうにか纏まって、ようやくナレーションを入れるところまできました。ご期待下さい。




2002年4月2日

 目まぐるしく4月になる。


ほぼ満開の山吹の花
 ほぼ満開の山吹の花

 庭の山吹の花が、二三日前に咲き始めたと思っているうちに、たちまち満開になってしまった。目まぐるしい感じ。来週から新学期だ。花とか行事とか、時間の指標となるものが、次々にやってきては通り過ぎていくという印象で、不安な気分にもなってくる。そこに気温の変化が重なり、着るものをこまめに意識しなければならない。「春ってやだなあ」という思いになる。そして、世界を巻き込んだテロリズム対国家の戦争を遠い背景にして、今年の一月からのテレビの「政治ショウ」の急変続きが身体を包むように重なり、時代の変化を意識させられるところとなっている。不安な気分が増してくる。「生き残る」なんていう言葉が、糸の切れた風船のように街路や地下通路や電車の中を流れて行く。「この変化の本質」は何だろうか。新しい哲学が望まれているように思えるが、それはまだはっきりとした形になっていない。わたしの予感では、それは「関係の組み替え性の時間軸を含んだ統括理論」ってなものじゃないか、なんて思ったりしてる。

 日曜日に、多摩美の卒業生の歩ちゃんと文枝ちゃんが、二人とも一歳になる息子を連れて遊びに来た。陽(はる)くんと海登(かいと)くん。海登くんは活発な子、陽くんはよく話す子、まだ言葉になっていない言葉だったけど。二人とも、テープレコーダーに夢中になった。ボタンを押して音楽が始まると、そろって身体を動かし踊る様子をする。そして、その再生停止のボタンが気に入った。指をそえて押させる。自分でやってみて出来ないとわたしの手を掴んで一緒に押せとせがむ。それを何度も繰り返す。親たちに聞くと、「携帯電話」が大好き、「テレビのリモコン」も大好きということだった。あらゆることがボタンで処理される「プッシュボタン人生」の始まりというわけだ。彼らにとって現実って何だ、と思うと、これまで考えたこともない世界が拡がっていくように思えるのだが。  





     
 








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